想恋歌
第四章 希くはその心に 第四十五話 2015.1.17
退院して間もない頃、佐為の誕生日が近づいているのに気がついた。 5月2日は佐為の誕生日なのだ。俺はこのことを黄先生に訊いた。だから佐為は、俺が誕生日を知ってる事を知らないと思う。 だが、一人で長時間の外出はまだ出来なかった。だけどプレゼントは絶対あげたいと思っている。2日の日に渡す事は出来ないけれど、遅れても佐為はそんな事気にしないと思う。 俺は考えに考えて、塔矢か和谷に付き合って貰い、買いに行くことにした。二人共、今年になってから車を購入してるので、その点俺にとって都合がいい。そんな事言うと怒らせるかもしれないので、言わないけれど。 まず塔矢に連絡したら、明日の午前中は指導碁があるから駄目だけど、午後からなら付き合えると言うので、迎えに来てもらうことにした。 一時半頃、塔矢が迎えに実家に来てくれた。 「まあ塔矢君、和谷君いつもありがとうございます」 母が挨拶しているのが聞こえてきた。和谷? 和谷も来たのか。 「こんにちわ。進藤の調子はどうですか?」 「それがまだ、動き回ると疲れるらしくて」 「そうですか。じゃ今日は極力注意して行動します」 「本当にすみませんね。我儘に付きあわせてしまって」 「いいえ、大丈夫です」 俺は肩から斜めがけが出来る、ショルダーバックを掛けて階段を降りて行った。今日の荷物は必要最低限の物だけにした。 「和谷も来てくれたのか?」 「ああ、ちょうど暇だったからな。塔矢一人より、二人いたほうがいいと思ってよ」 「そっか。二人共悪いな」 「ヒカル、あまり我儘言っちゃダメよ」 「解ってるって。じゃ夕方には帰るから。行ってきます」 車に乗り込むと塔矢が「何処に行くんだ?」と尋ねる。運転する者としては当然の問い掛けなのだが、ヒカルの応えは振るっていた。 「わかんねぇ。何処がいいと思う?」 「ハア? 買い物する場所も決めてないのか。じゃ何を買うんだ?」 「まだ決めてない。何がいいと思う?」 塔矢も和谷も脱力しそうだった。進藤らしいちゃっらしいのだが、病み上がりだから怒る訳にもいかず、 「じゃ予算は?」これには応えが返ってきた。 「う~ん。大体50……かな?」 「ごじゅう?」 塔矢と和谷が同時に呟いた。普通50と言ったら後ろにつくのは、円か万しかない。億もあるが今回それは無い。5だったら、5円・5百・5万、その他数多い。まさか50円、な訳ないから、 「50……万か?」 和谷がおそるおそる問いかけると「そうだぞ」と、呆気らかんとのたまわった。 「ゲッ! 誕プレに50万も出すのか?!」 「ウン。だって佐為だもん、安物じゃ駄目だよ。佐為に恥かかせるような物はあげれない」 まあ相手が相手だから、解らない事もないが……。 「藤原さんは、そんな事気にしないと思うけどな。好きな相手から貰えるなら、何でも嬉しいと思うけど」 「俺が気にするんだってば塔矢。だってベルリンに行った時によ、佐為にマフラーをプレゼントしたんだけど、佐為が選んだマフラーって、5万円だったんだぞ。和谷、自分のマフラーに5万出す?」 「出さん」 「だろ。俺さぁ、佐為に色々して貰ってるから、こういうイベントでもないと、プレゼントする時が無いんだよ。佐為はいっつも、そんな事気にしなくっていいって言うんだけどさ」 「あのよ進藤。お前の気持ちは解るけどよ、50万の商品選ぶとなると貴金属とか、かえって限定されてしまうんじゃないか。金額はソコソコでもいいと思うがな。プレゼントってのは気持ちだろ? その人に喜んで貰いたいって思いで選ぶから、価値があるんじゃないか、って俺は思うんだけどなぁ」 「うん、そうだね。僕も和谷の意見に賛成だな。藤原さんは欲しいマフラーを選んで、その値段がたまたま5万だったというだけだ。初めから金額ありきで、選ばないほうがいいと思う。藤原さんが喜ぶ物を選んだ方がいい」 聞いたヒカルは盛大に膨れっ面をした。それを観た和谷がヒカルの両頬をムニューっと引っ張った。 「そういう顔をするんじゃない。可愛い顔が台無しになるだろ」 「だって、お前達が予算はって訊いたんじゃないかぁ。二人してオレのこと否定して……」 「お前を否定してるんじゃない。金額に拘るなって言ってんだ。お前だって、藤原さんに喜んで貰いたいから、プレゼントするんだろ?」 「うん……」 「じゃ、デパートへ行って覗いてみるか」 しかし、プレゼントを選ぶというのは、とてつもなく労力と時間が掛かるものだと、痛感させられた。何がいいのかさっぱり解らない。1時間がアッと言う間に過ぎ去ったが、それでも決まらない。やっぱ事前に佐為に訊くべきだったか。 「和谷ぁ、ちょっと疲れてきた」 「おい塔矢、喫茶店で休憩するぞ」 和谷と塔矢はコーヒー。ヒカルはパフェを注文。ペロリと食べていた。 「よくそんな甘いもの食べれるな。胸焼けしそうだ」 「塔矢甘いもの苦手だもんな。佐為も駄目なんだ。コース料理のデザートは大概俺が全部食べるんだぞ」 「そりゃ良かったな」 「和谷、十段戦惜しかったな。あとちょっとだったのに。でもいい対局だったなぁ」 「済んだ事は忘れた。それより俺フッと思いついたんだけど、万年筆ってどうだ。藤原さんだったら仕事で使うこと多いんじゃないか」 「ああ、それいいかも」 「万年筆~? 万年筆なんて高くても1万円ぐらいじゃないのか」 「バカ言え進藤。ピンきりだ。高いのはウン十万する。万年筆なんてって言い方したら、万年筆に失礼だぞ」 「へぇ~、そうなのか」 じゃ早速行こう。喫茶代はヒカルが払った。付き合って貰った礼だ。 売り場で万年筆に圧倒されたと言うのが正直な感想だった。間近でこんなに繁々と観たのは初めてだ。 三人の意見が一致して選んだのは、(オマス万年筆・アルテイタリアーナなんとか・かんとか) という、今年度のデザイン賞と優秀賞を受賞した品だそうだ。 値段は13万ちょっと也。ヒカルもカッコイイ万年筆だと思っていた。 キレイに包装して貰い、大事そうに抱えて帰途に着いた。 家に到着したら、母が塔矢君達の食事も作ったので、是非食べて行ってくださいと言った。 「時間あるなら食べてけよ。母さんも喜ぶし俺も二人がいると楽しい」 塔矢も和谷も、其処まで言われて断るのは失礼と思い、ご相伴に与ることにした。 そして今日14日(日) は、自分のアパートに戻る日。朝から、さほどある訳でもない荷物の準備した。 そして、夕食は佐為と一緒。当初ヒカルは、父と母も一緒に夕食に招待して、少しでもわだかまりを埋めていった方が、良いのではないかと提案したのだが、佐為に止められた。まだ時間が余り経っていないので、焦ってする必要はない。むしろもう少し間を置いて、ゆっくりとした方が良いと言われた。 「ご両親もヒカルもそして私にも、時間が必要です」って言ってた。 時間どおりに仁科さんが迎えに来てくれて、母に見送られ自分のアパートに戻った。 「無理をしないでねヒカル。具合悪くなったら、周りの人にすぐに言うのよ」 「うん、大丈夫。母さんありがとう。又連絡するから」 車が発進してすぐに仁科さんは、俺が無事に退院出来た事を喜んでくれた。 「ありがとう。仁科さんにも心配掛けてすみません」 「いえいえ私などより、佐為様が本当に打ちのめされてるご様子で、気がかりでございました」 「うん、佐為にもたくさん心配させちゃった」 アパートに到着すると、仁科さんが荷物を持ち「お部屋までお持ちします」と言うので、 「大丈夫。自分で持てます」 「いいえ、お部屋に入るのをちゃんと見届けるようにと、佐為様から申しつかっておりますので、ご一緒します」 ヒカルは目を瞬いて、大仰な溜め息をつき項垂れた。 「もう佐為ったら、心配性だなぁ~。じゃ、お願いします」 「無理も無いことでございますよ。佐為様はヒカル様を、大切に思っていらっしゃるのです」 「はい、そうですね」 扉の前に着き、荷物を受け取り「ありがとうございました」と頭を下げても、仁科さんは動かない。立ったままニコニコとヒカルの顔を眺めている。 あぁ~はいはい。扉を開けて中に入るのを待ってるんだな。キィーホルダーを取り出し、カチャっと鍵を回す。 「仁科さん、お茶でも飲みませんか?」 「ありがとうございます。ですがこれからすぐに回らねばなりませんので、ここで失礼させて頂きます、また、夕刻に佐為様とお迎えに上がります」 「解りました。じゃ、ありがとうございました」 「失礼致します」 扉を閉め鍵をカチャリと回すと、コツコツと足音が離れて行くのが聞き取れる。 佐為はどうやら神経過敏になっているようだ。確かに無理ないかと思う。 さてと、少し空気の入れ替えをしておこう。何となく空気が籠もってる感じがする。 部屋の掃除は、この間母さんがしてくれた。帰っていきなりでは、身体に障るかもしれないからって言って。 こんな事でも、母の有り難みを感じる様になった。 「しまったぁ~。菓子買ってくりゃよかった。冷蔵庫に何かあったかな」 冷蔵庫の中もキレイにされていて、おそらく古かった惣菜とかは処分してあるみたいだ。コーラと烏龍茶が2本ずつあった。母さんが買って入れておいたのだな。 コーラを手に取り、リビングのソファーに座り、ゴクゴクと飲みゴロンと横になる。 佐為が来てくれるのは6時頃だから、1時間ぐらいは横になってもいいな。寝室にしている部屋に入り、ベッドサイドテーブルに置いてある、写真立てに目が向く。 ドイツに行った時の写真で、小宮が撮ってくれ奈瀬が嬌声をあげた写真だ。俺のお気に入りで、パスケースにも入れている。母さん掃除に来た時に、この写真観たよな? 写真観てどう思ったのだろうか……。今更考えてもしょうがないっか……。 暖かい日差しが入り込むベッドの上で、ウツラウツラとしていたヒカルは、本格的に寝込んでしまった。 5時半頃、佐為は出先からヒカルのアパートに向かっていた。 暴漢に襲われる事件から早1ヶ月余り経っていた。ヒカルが助かる事が出来本当によかった。あの子を失う事になっていたら、私は今頃どうなっていただろう。 実家で療養中に、5月5日が訪れた。その日の事を思い出すと、切ないような、それでいて思わず笑みが溢れる様な、複雑な気分だった。そう、5月5日は私が(霊体の時の) ヒカルの前から消滅した日だった。 朝6時、突然佐為の携帯が着信音を響かせた。普段は大体5時半頃に起床するので、その日も通常通りの、朝の支度をしている途中だった。 「ヒカル? どうしました?」 そう問いかけるのも無理からぬことで、こんなに朝早く電話が掛かる事は無かった。電話の向こうで小さく吐息をつく音が聞こえる。 「佐為、おはよう。あの、ゴメン。朝早く電話しちゃって。まだ寝てた? あの、あの、佐為大丈夫? だよね」 迂闊にも私は、その日の事に思いが至らなかった。だからヒカルが、何故このような問い掛けをするのか、見当がつかなかったのだ。 「勿論大丈夫ですよ。どうしたんです。ヒカルこそ体調はいいのですか?」 「う、ウン。俺は大丈夫。ごめんな、早くに電話しちゃって。じゃまたな」 あっ、はい。それではと電話を終えたが、私はなんだか釈然としなかった。が、そんな気持を抱えたまま、私は仕事に出掛けた。それから2時間とおかず、またヒカルから電話がかかった。 「佐為ゴメン。仕事中だよね。佐為いるよね。電話に出てるからいるに決まってるけど。ごめん」 ヒカルは言うだけ言って、さっさと切ってしまった。佐為いるよね。その言葉でハッと気がついた。携帯の画面で日付を確認する。 ――5月5日―― ああ、なんという事、忘れているなんて。ヒカルはきっと朝から、いえもっと前から、気にして心配をしていたのだろう。可哀想な思いをさせてしまった。あの子には未だ、過去の出来事では無いのだろう。 佐為はスケジュールを確認し、秘書の斉藤さんに調整を頼み、ヒカルに折り返し電話をした。 「佐為、ナニ?!」 ワンコールで出るところが、なんともいじらしい。多分今日は一日中、携帯を手元に置いておくつもりだったのだろうなと考える。 「今日お昼を一緒に食べましょうか? 都合は如何?」 「う、うん! 全然OKだよ」 弾んだ声をあげる。満面の笑顔が目に見えるようだ。 「では、12時頃実家に迎えに行きます。ご両親に私と食事に出かけると、ちゃんと言っておきなさいね」 「うん解った。待ってる」 今日逢えるとは思っていなかったので、嬉しさがジワジワと込み上げてくる。この間買ったプレゼントも、佐為に渡すことが出来る。喜んでくれるかなぁ~とドキドキしてしまう。 食事も終わりに近づき、デザートがセッティングされた頃に、プレゼントを渡した。 「佐為、遅くなったけどお誕生日おめでとう」 佐為は目を瞠りヒカルの顔みつめ、プレゼントを見て「私に……」 嬉しそうに笑った。 「開けてもいいですか?」 コクンと頷いたヒカルは、佐為の反応を見逃さないように、くいいる様に見ている。 箱の中にキレイに収まってる物を見て、「万年筆。これはオマス・アルテイタリアーナですか?」 「佐為知ってるの? ひと目観ただけで解るなんてスゴッ!」 「本当に私が頂いてもいいのですか。ありがとうヒカル。大切に使います」 「気に入ってくれた?」 「はい、勿論」 「よかったぁ」 佐為はそれはそれは、本当に嬉しそうにしていた。その言葉どおり、終生この万年筆を大事に大切に使い続けた。 その日は夕刻まで一緒にいた。ヒカルは嬉しそうに過ごし、佐為にペッタリ張り付いていた。まるで消えてしまうのを怖れる様に。それを思い出すと、本当に切ない気持ちにさせられる。 佐為の死後その万年筆は、ヒカルから贈られた大事な品々が収められている、緻密な装飾が施された箱から見つける事が出来た。それを見つけたヒカルは、手に取り胸に抱き咽び泣いた。 9日前のそんな出来事を思い浮かべていると、ヒカルのアパートの前に着いた。 「仁科さん、少し待っててください」 そう言い置いて3階の部屋に辿り着き、呼び鈴を鳴らす。 タッタッタッと駆けて来る足音が響き、パッと顔を輝かせたヒカルが現れる。 「佐為、早かったな。すぐ支度するから上がって」 「ヒカル不用心ですよ。誰が来たのか確認してから開けなきゃ」 はいはいと、踵を返し自室に戻ろうとするヒカルを呼び止める。コッチコッチと手を振り招く。 「ナニ?」 と佐為に近寄ると、抱きしめられた。ヒカルもニッコリして、佐為の背に腕を回す。 チュッとキスされ、顔を見つめあいクスクスッと笑いあう。それから二人はゆっくりと深く口づける。 久しぶりの逢瀬の余韻を、楽しむように逃さぬように。 顔の向きを何度も替え、舌を絡ませ長く深く、熱情を貪り吸い上げるように、二人の想いを確かめあう。 「ぅん……」 口づけを終えても、佐為はヒカルの存在を確認するように、抱きしめ続けている。 「佐為……大丈夫?」 そーっと問うヒカルに、ニッコリ笑んで「さっ、支度してらっしゃい」 ヒカルの身体の向きを変え、お尻をポンと押し出す。 「ネクタイは無くてもいいから、ジャケットを着てください。ついでに寝癖も直してね」 アリャ、バレてらぁ。 ヒカルは本当に寝てしまい、起きたのは佐為が来る10分前だったのだ。慌てて顔を洗い歯磨きをして、服を着替えようとしていた時にチャイムが鳴った。 支度を終え玄関を出る間際にも、「さっ、行きましょう」 と言ってヒカルにキスをした。これって、外国の映画とかで、出かける時とか帰った時に、恋人や夫婦がチュッってする、アレか? 夕食はイタリア料理のお店に連れて行ってもらった。何処に行くのって訊いたら、 「祖師谷にあるイタリア料理店です。2000年にオープンした比較的新しいお店ですね」 「祖師谷って事は世田谷か? 車だと時間かかるかな」 「10kmは無いですけど、どうでしょう。まあ車だと、ちょっとかかるでしょうか。でも此処の看板メニューの(子羊の藁包みロースト) は美味しいですよぉ」 到着した場所はモロ住宅街じゃんって所で、隣には米屋さんなんかあったりして。4階建てビルの1階に入っていた。外観はイタリア料理って聞いてなかったら、判らなかったかもしれない。 ひょっとすると、イタリアの長閑な牧歌的雰囲気というものを、表しているのだろうか? どっちにしろ、イタリアに行った事の無い自分には解らない。 「佐為、ここの看板可愛いな」 「あれ、ホントですね。前は気がつきませんでしたよ」 「前って、前は誰と来たんだよ」 「……まあ、色々な人と」 答えが気に入らなかったのか、口を尖らせているヒカル。 「ほら、そんな顔してないで入りますよ」 店内はシックで落ち着いたインテリアで、温もりを感じさせる照明が心地良い。佐為はどうやら、こういったインテリアが好みの様だと、ヒカルにも段々解ってきた。 ドイツに行った時、ミュンヘンで泊まったホテルもシックな感じだった。マンションも落ち着いたインテリアで統一されている。 料理は、「シェフのおまかせ旬菜コース」 というものを頼んであるらしい。単品で佐為が看板メニューと言った(子羊の藁包みロースト) が追加されてる。佐為はビンテージワインの赤を頼み、俺には、オレンヂジュースのペリエ(ロケッタブリオブルー) 割りを頼んでくれた。 料理は9品あり、俺の胃袋も満たしてくれた。言うまでもなく、とてつもなく美味しかった。 「佐為、俺またここの店に来たい」 「ええ、来ましょうね」 食事を終え仁科さんに送られて、マンションに到着。 「仁科さん、ありがとう。おやすみなさい」 「おやすみなさいませ」 「マンションに来るのも久しぶりだぁ」 リビングに入ると、佐為が後ろからフワリと抱きしめて来た。 「一緒にお風呂に入りましょうか?」 「えっ……だってセックスは、1ヶ月ダメって桂木先生が言ってたよ」 「だからセックスはしません。出すだけ。我慢してるんでしょ?」 「うん。あんまり出したら身体に悪いかと思って」 「大丈夫。若い人が我慢しすぎるのは、かえってよくないです。出すだけでもかなり落ち着くから」 「ん……。じゃ俺、風呂の湯を張ってくる」 顔を赤く染め小走りに駆けて行くヒカルを眺め、クスッと笑いを洩らす。 二人でお風呂に入り、バカップルの如く戯れじゃれあった。出た後はリビングで、ソファを背もたれにカーペットの上に座り込み、佐為に後ろから抱きかかえられ、午前2時を過ぎても構わず話し込んでいた。 この二年後、ヒカルは本因坊挑戦権を獲得する。