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想恋歌

第四章 希くはその心に 第四十一話                             2014.12.6

 アキラは一旦ホテルのロビーに降り、和谷に電話を入れた。この時間ならもう到着してるはずだ。案の定コール音二回で和谷が出た。連絡を待っていた様子がありありと分かる。 「もしもし塔矢。どうだった?」 「うん、病院へは行ってきたけど、意識はまだ戻ってなかった。それで、ホテルに行って藤原さんに状況を説明してもらった」  アキラは、藤原さん達が説明してくれた状況を、和谷に説明した。 「ヤク中かッ!」  舌打ちが聞こえそうな程、吐き捨てるように言った。かなり憤ってる様子だ。 「和谷怒りは分かるけど、明日の対局ベストを尽くせよ。後で進藤に嫌味言われるぞ」 「解ってるよ。進藤が無事に目覚めるなら、嫌味でも何でもタップリ聞いてやる」  和谷君、電話変われと緒方さんの声が聞こえる。 「アキラ君、俺達は明日も帰れない。メールでいいので状況を入れておいてくれ」 「はい、解りました」 「塔矢先生には連絡したのか?」 「はい、先ほど連絡しました。都合付き次第帰ってくるそうです」 「そうか。宜しく頼む」  はい、解りましたと言いつつ電話を終わらせたが、実際自分が出来ることなんて何も無いのだ。  電話を切った途端着信音が鳴り響く。画面を見ると社からだ。バタバタしてしまい、彼に連絡がまだいってなかったなと思った。 「もしもし、社。今こっちから電話しようと思ってたんだ」 「進藤が暴漢に襲われたっちゅーは、ホンマのことか!!」  思わず受話器を耳から離してしまった。離しても社の声ははっきりと聞こえる。 「そんなに大きな声で怒鳴らなくても、ちゃんと聞こえる。少し落ち着け」 「落ち着けだと! 落ち着けちゅうんか、進藤が襲われたちゅーに、お前、お前は」 「そうだよ。僕達が興奮して怒ってみたって……。それで進藤が良よくなるなら僕だってそうする」  正論を唱えられグゥの音も出なくなった社。自分でもそんな事は解ってはいたが……自身を落ち着かせるように大きく2度深呼吸を繰り返す。 「それで容態はどないな状態だ」 「右側の背中を刺されて、肺裂傷を起こしてるらしい。手術そのものは上手くいったらしい。後は意識が戻るのを待つだけ。もう麻酔も切れてるらしいから、目覚めてもいいと思うのだけど……」 「そうか。俺、今夜は動きがとれへんから、明日朝イチで行く。お前の所へ泊めてくれや」 「うん、いいよ」 「今日はもう病院へは行かんのか」 「イヤ、夕食食べたら行く。変わった事があればすぐ知らせる」 「分かった。頼む」  その後藤原さん達と一緒に夕食を摂った。自分も何となく人恋しくて、誰かの傍に居たかったというのもある。この後病院に行くというので、ちょうどよいと思ったのもある。  進藤の意識が戻ってるといいのにと思いつつ、食事をしていた。僕も藤原さんも食欲は余りなかったが、藤原さんも少しずつ食べているようだった。というか、楊先生と黄先生が「全部じゃなくてもいいから、少しずつでも口をつけなさい。口当たりの良い物を何か頼みましょ。塔矢君も、口当たりの良い物なら食べれるでしょ?」と世話を焼いてくれている。 「はい、じゃ杏仁豆腐頼んでいいですか? ここの杏仁豆腐は滑らかで、トロッと溶けてとても美味しいです」 「じゃ、全員分頼みましょ」  其のころ病院では、そろそろ夕食の食事を何か買いに行こうかと正夫が思案していた。美津子は多分ヒカルの傍から離れないだろうし、親父達をこき使う訳にはいかないから、やっぱり自分が動くしか無いか。 「父さん、俺弁当買ってくるから待っててくれ」と重い腰を上げ歩いて行く。  其処へ「あの進藤ヒカル様のご家族の方でしょうか?」と男性が声を掛けてきた。 「はい、そうですが」と怪訝に思い返事をする正夫。 「私、藤原佐為の秘書をしております、斉藤と申します。専務の申し付けで、皆様のお食事をご用意して参りました。どうぞお召し上がりくださいませ」  運転手の仁科と分けて持っていたお弁当を差し出す。 「これは申し訳ありません。それでは遠慮無く頂戴します」 「それから、お祖父様達がお帰りになる際には、車でお送りさせて頂きます。彼は運転手を務めております仁科と申します。こちらで待機しておりますので、お声を掛けて頂ければと思います」 「いや、其処までして頂かなくとも、儂らはタクシーで帰りますからお気遣い無く」 「いいえ、どうぞお気になさらずに。それとヒカル様はまだ意識がお戻りには?」 「ハア、残念ながらまだ戻りません」 「そうでございますか。解りました。それではロビーの辺りでお待ちしております」  去って行く二人の姿を見ながら、そんなに気を使わなくてもいいのになと、正夫は思っていた。  ○●○  ヒカルは夢と現の境界線を彷徨っていた。 「アレッ? 此処どこ? 俺どうしたんだ……」  辺りは薄暗い。見えないということはないけれど、何も目に付くものが無い。目の前がユラユラとしている感じがする。掌を開いて確認し、自分の身体を眺め回す。いつもの自分の服を着て、靴もちゃんと履いている。 「夢……なのかなぁ?」  一歩足を踏み出すと、周りの空気が揺らめいている。その時、自分の目の前を魚が横切っていった。 「……さかな」  上を見上げると遠くに僅かな明かりが見て取れる。 「俺、海の中にいるのか?」  でも普通に呼吸している。ユラユラしていると思ったのは、水が対流しているからだと気がついた。どうして自分がこんな場所にいて、しかも水の中にいるのに、呼吸が出来ているのか理解出来なかった。 「俺、何をしていたのだっけ?」  いくら考えても思い出せない。何かとても大事な事を忘れている様な喪失感がある。暫く考えていたけど、とりあえず動いてみようと思い、足を踏み出した。どっちに行けばいいのかも判らないので、最初に向いていた方向に歩いた。  トボトボ歩き続けても、岩も無ければ海草が揺れている訳でもなく、他の魚が泳いでるのにも出くわさない。此処は本当に海の底なのかと思いたくなる。  立ち止まって辺りを見回すと、遠くに蠢くものが見えた。魚がいるかと思い走って近づいたら、無数のサメがグルグルと泳ぎまわっている。ギクッとして足を止め目を凝らすと、何かを狙っているようだった。一体何をと、更に群れの中にいる物を見定めようとした。 「えっ、人? イッ! あれ、あれは……佐為」  佐為がサメに襲われている。 「ウワァー! 止めろ。佐為、逃げろ逃げろぉ! 止めろバカぁ、佐為を襲うな!」 「ッ!! うわぁぁぁ~!」  ヒカルの絶叫も虚しく、佐為は二頭のサメに食いつかれ、胴体が引きちぎられる。  その声に反応したのか解らないが、他のサメがヒカルに狙いを定める。 「ヒッ!」と呻いて後に下がった足の下には地面が無く、そのまま真っ逆さまに落ちていった。  次に目覚めた時には、荒涼たる岩場が広がっていた。例えるなら西部劇に出て来るような、アメリカの広大な景色のようだ。 「あれ、此処は?」  佐為はどうなったんだ。あのサメは? 穴の中に落っこちたようだが、あれからどのぐらい時間が経ってるのか判らない。 「そうだ、俺は帰るんだ、佐為の所に。でもどうやって帰ればいいんだ」  サメに食いちぎられた佐為を思い出し、ガクガクと膝が震える。なんであんな、あんなことに。これは夢だよな。ただの夢なんだから大丈夫だ。そうだ大丈夫だ、落ち着くんだ。必死に言い聞かせるのだが、不安は次から次へと芽生えてくる。  其処では身の丈3メートルはあるかと思われる、人と獣のような形をした生き物に襲われた。泣きそうになりながらなんでと思いながら逃げ惑う。 「ヒィー助けて誰か……。佐為、助けてぇ」  夢だとは頭の片隅で認識しているはずなのだが、現実と違和感の無いリアルさに心と身体が逃げをうつ。まるで面白がり甚振っている様に追いかけられていると、獣人の叫びが聞こえハッとして振り返ると、その胴体に矢が突き刺さっていた。その遥か後方には弓を番える佐為の姿が。 「早く、あの岩山の穴に隠れなさい」と叫ぶ声。 「佐為! お前も一緒に」 「私はいいから早く行きなさい。走って!」  その声に押されるように走りだしたヒカルだが、いくらも走らぬうちに崖の縁に到達し、走ってきた勢いのまま崖下に転落した。  次に目覚めた所は、緑も目に鮮やかな草原地帯だった。それまでの場所と比べれば、ホッとするような穏やかな心地よさがある。 「佐為は、どうなった?」  思わず口をついて出た言葉に、身体が身震いする。夢なのに、夢なんだから、何度そう言い聞かせても震えは治まらない。現実の俺は一体何してるのだろう。夢を見てるってことは寝てるのか? 何故寝てる?  何処に行き何をすればいいのか判らない。トボトボと歩いていると川の畔に辿り着いた。 「この川は……」  現代の川は整備されていて、護岸工事もきちんとされているはずなのに、ここは自然のままの様相だ。ほんの小さな小川程度のものなら、自然のままということもあるだろうが、この川は結構大きい部類だと思う。かなり流れも速く中心は深そうに思える。  川沿いに歩いていると、何処からか笛の音が聴こえてきた。この音色は日本の笛だよな。お祭りとかでピーヒャラララァ~と吹いてる、横笛というものだと思う。  佐為に教えて貰ったことがあり、横笛には種類がいくつかあるらしい。佐為も平安時代に吹いてたのか訊いたら、龍笛を嗜みますよと、言ってたことがあった。  この音色はその龍笛なんだろうか? ヒカルには違いがさっぱり解らない。その音を頼りに歩いていたのだが、いつの間にか音は聴こえなくなっていた。  そのまま暫く歩いて行くと、視線の先には川の中心に向かって歩いている、平安装束の人物が……。 「佐為、駄目だ! 戻って!」  考える間もなく、瞬時に自分の愛しい人が命を絶つ姿を目にして、川の中に入り引き戻そうとする。 「離してください。私は死ななければなりません」 「バカ! 何言ってるんだ。死んじゃ駄目だ」 「だって、私は死ななければ、貴方に会えません」 「なっ! 佐為……」  アッと言う間に流れにのまれ、水の中に引き込まれる。佐為の腕を掴んでいたヒカルも一緒に引き込まれ、そのまま意識が途絶える。  背中に痛みを感じ意識が浮上する。周りを見回すと、何も無い真っ白な空間が無限に広がっている。痛みの元は固い地面に横たわっていたからの様だ。 「なんでこんな。一体何が起きているのだ。佐為はどうしちゃったんだ」  さっきのあれは、佐為が入水自殺した時の出来事なんだろうか? 佐為はあのまま死んじゃったのか。と言うか佐為は平安時代の人間なんだから、入水自殺してなくても、もう生きていないはずなんだよな。 「帰らないといけない、佐為の所に……」  何も無い空間というのは、何処か怖ろしく不安が増幅される。ここで、何をして何処へ行けばいいのか。そうやって暫く立ちつくしていると、視界が徐々に明けてきた。どうやら霧か靄がかかっていて真っ白に見えていたらしい。  前方遥か彼方に黒ずんだ門が見える。ここから視てもかなりの大きさがある。黒いというだけで何やら不吉な思いに囚われるのは、気のせいだろうか。 「とにかくアソコまで行ってみるか」  辺りに気を配りながら歩き続ける。門の近く20メートル程の距離まで近づいた。 「でっけぇなぁ。何メートルあるんだ?」  その刹那門の内側にボゥーっと人の姿が浮かび上がった。 「佐為!」  平安装束に身を包んだ佐為が、穏やかな微笑みを浮かべ立っていた。嬉しくなり駆け出したその時、 **「そちらにに行ってはなりませぬ」  後方から聞こえて来たその声に振り向くと、佐為が立っていた。 「エッ? 佐為。あれなんで?」  もう一度門の方に視線を向ければ、やはり其処にも佐為がいた。門の内側と自分の後方を交互に見ながら、ヒカルは混乱に陥る。 「佐為が二人……」 *「ヒカル、早くこちらにいらっしゃい。貴方が来るのを待っていたのですよ」  門の内側に立っている佐為が呼ぶ。 **「行ってはいけません。その門を通り抜けたら二度と戻れなくなります」  後方に立っている佐為が呼ぶ。ヒカルはますます混乱した。どっちの佐為が本物? イヤ違う違う。これは夢なんだから、どっちも本物じゃないかも。でも、どちらかを選ばなければいけないのかもしれない。  門の側にいる佐為が語りかける。 *「私とずっと一緒にいられるんですよ。此処にいれば毎日楽しいことばかり。辛いことも悲しいこともないのですよ」 「辛いことも悲しいことも?」  そうですよと微笑みを浮かべて話す様子はいつもの佐為だ。一歩足を踏み出し、でも、と後を振り返る。  後の佐為は、慈愛に満ちた優しい、なれど何処か悲しげな表情を浮かべている。 **「貴方を失ってしまったら、私には生きる意味がないのです。私の元に戻って来て。苦しみも悲しみも二人で共に乗り越え、生きてゆくのです。二人一緒なら怖くないでしょ? 帰りましょうヒカル」  二人一緒なら怖くない……。そう帰るんだ、佐為の元に。コクンと頷くと後方にいる佐為に向かい歩いて行く。瞬間、門の側に佇んでいた佐為は、真っ黒で邪悪な姿に変貌し、ヒカル目がけて矢の様に突き進んだ。 「走ってヒカル!」  自分の後ろから唸りを上げて迫ってくる物体を目にし、全速力で佐為の元まで駆けていく。ヒカルを自分の背中に回らせた佐為は、また弓を番えた。さっきまで手にそんな物は持って無かった筈だが、一瞬で現れた。夢ってなんて便利なんだと、場違いな感想を抱く。  佐為が矢を放つとあやまたず命中したが、それでも突き進んでくる。次の矢も放ち命中したが、全く効いていないようにみえる。佐為は弓を捨てヒカルを抱きしめる。 「うわぁ~!」  二人共吹っ飛ばされ、そのまま意識が途絶えた。  ○●○  佐為達は夕食を終え病院にやって来た。正夫が早速差し入れのお礼を述べる。それまでには、他の棋士達や友人達も病院に駆けつけていた。  其処に青ざめて泣きそうな顔をした藤崎あかりが、友人の津田久美子と走ってきた。 「塔矢君、ヒカルは? ヒカルは無事なの?」 「あかりちゃん、大丈夫だから落ち着いて。手術はちゃんと上手くいったから」  ヘナヘナ~と崩れ落ちるあかりを、佐為とアキラが抱えて椅子に座らせる。久美子が側に座り支える。  佐為があかりの手を取り語りかける。 「大丈夫ですか? ヒカルは私達をおいて先に一人で逝ったりはしません。こんなに可愛い幼馴染がいるんですから」 「はい、はい」  頷くあかりの目からは涙が溢れ続ける。久美子も真っ赤な目をして「あかり、大丈夫だよ」と腕を回し抱きしめる。 「心配なのは解りますけどね、ICUにいるうちはご家族以外の面会は出来ないのですから、皆さんそろそろお帰りになられてはどうですか。もしくは休憩室がありますから、そちらで待機して頂けると嬉しいんですけどね」  憮然とした声で桂木颯太郎が仁王立ちしている。進藤ヒカルの様子を見に来たら、廊下は雨後のタケノコのように人で溢れ替えっている。 「先生、すみません。今から診察されるのですか?」 「そうですよ」 「解りました。診察が終わりましたら帰ります」  ってことは、診察終わるまでテコでも動かないってことじゃないか。まったく佐為は昔とちっとも変わってないな。 「では、失礼。診察に入ります」  とっとと診察を済ませてしまおうと、医師としては如何なものかと思わせる事を思った。

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