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想恋歌

第三章 揺蕩う想いに 第二十四話                             2014.5.20

 今日は秋晴れのいい天気になった。前日までは雨と曇りの日が5日程続き、気温も18度から20度前後で、少し肌寒く感じたが、今日から晴天が続き気温も若干高めの様だ。  最も東京から離れるので、余り関係ないけど。  成田から仁川(インチョン)までは2時間30分程のフライト時間。関空からは1時間50分から2時間程。こんな細かい事を逐一思うのは塔矢だけで、ヒカルと和谷はそんな細かい事はいちいち気にしない質だ。  案の定飛行機が飛び立つと「塔矢、韓国に何時に着くんだ?」  進藤からお声がかかる。 「まったく、自分が乗ってる飛行機のフライト時間ぐらい知っておけよ。チケットに印刷されてるだろ。2時間30分かかって11時30分頃に到着。社は11時20分に着く」  此処にもう一人、ヒカルの依存性質の原因になってる人物がいる。 「お前がいるから別に知ってなくてもいいじゃんかよ。永夏と秀英に会うのも半年振りぐらいだな。俊勇(ジュンヨン)とか俊浩(ジュノ)も来るかな?」 「来るんじゃないか。声掛けるって言ってたから」 「塔矢、塔矢先生は今何処にいらっしゃるんだ?」  「台湾だそうだよ。その後中国に行くって言ってた」 「なぁ、飛行機乗ったら食事出るんだろ?」 「いや、知らないな。出ない飛行機もあるみたいだよ」 「11時30分に着くってことは出ないのか?」 「だから、この飛行機で出るかどうかは知らないよ」 「何で、食事が出るか確認取らなかったんだよぉ」  少々膨れっ面で塔矢に文句言うヒカル。飛行機に乗ったら何時でも食事が出ると思っていたらしい。 「君が昼前に着いて韓国料理を食べたいって言ったんじゃないか」 「そうだっけ? 和谷も食事出たほうが良かったよな」   形勢が悪くなったので、和谷に矛先を向ける。 「俺はどっちでもいい」 「チェッ、俺寝る。食事出たら起こして」  全く、いつまでも子供みたいな事を言って。これで来年は成人になるとは……。自分と違って、進藤は外見も歳より若く見られがちではある。見られがちではあるが、中身はもうちょっと成長して欲しいものだ。時が過ぎれば成長するか……な?  だが、いざ碁盤の前に座ると別人の様に落ち着き払い、とても19歳とは思えない打ちまわしをするのが進藤だ。それが彼の魅力でもある。まあ、このままでもいいか。  一時間程してから、待望の食事と飲み物が配られた。 「おい、進藤起きろ。飲み物何がいいんだ」  和谷に小突かれて目を覚ます。 「う~ん、何があるの?」 「スカイタイム、アップルジュース、コカ・コーラ、冷緑茶、温かい緑茶、ミネラルウォーター、コーヒー、コンソメスープがございます」 客室乗務員の柔らかい声が聞こえる。 「アップルジュースお願いします」  塔矢はコーヒー、和谷はコカコーラを頼む。  やった~、ご飯だご飯だとご機嫌モードの進藤。  今こんなに食べたら、着いた時に確実にお昼ご飯は食べられないと思う塔矢。 「進藤、到着したら韓国料理食べに行くんだよな。今食事して大丈夫なのか?」 「軽い軽い。ドンと来いっての」 「あっそう……」 「進藤食事が出てよかったな。塔矢、食べれないなら無理して食べること無いんだぞ」 「うん、分かってる。少しだけ食べるよ」  満腹になったヒカルはまたもや昼寝モードだ。  そしてほぼ定刻通り、仁川国際空港に到着した。荷物を受け取り税関を抜けると、到着フロアーには永夏と秀英が迎えに来ていた。先に到着した社も一緒だ。 「進藤~、塔矢ぁ、和谷ぁ~、コッチコッチ」  秀英が元気に手を振っている。 「永夏、秀英、久し振り~、元気だったか?」 「うん、元気元気。そっちはみんな変わりないのか?」 「ああ、変わりないぜ」  塔矢は丁寧に頭を下げる「お迎えありがとうございます。宜しくお願いします」 「相変わらず堅苦しいやっちゃな塔矢」 「悪かったな」  ヒカルと秀英がプッと吹き、ギロリと塔矢に睨まれる。 「ヒカル、よく来たな。待っていたぞ」  永夏は殊の外嬉しそうだ。塔矢と和谷の事は眼中に入らず。相変わらずの分かりやすい永夏の態度に、残りの4人は顔を見合わせて苦笑いだ。 「うん、やっと来られて嬉しいよ」 「そうか。さぁ行くか。ヒカルと社は俺の車に乗れ。塔矢と和谷は秀英の車に乗れよ」  はいはい、わかってますよ。と和谷が肩を竦めて見せる。 「なぁ永夏、韓国料理食べに行きたい」  「解ってる。美味しい店に連れてってやる」 「わぁ~い!」  両手を上げて喜びを表すヒカル。やっぱり行くんかと、げんなりする塔矢。  其々車に乗って出発する。  かなり長ーい仁川大橋を渡り、ソウル市内に入り目的の店はすぐだ。  わぁー韓国だぁ、街並みが全然違うな社。おっ進藤あっちを見ろ、珍しい建物があるぞ。ホントだ、永夏あれは何? 「景福宮(キョンボックン)だ。古宮だな」 「コキュウちゅーのは、古い宮と書くんか?」 「そうだ」 「へぇー綺麗だな社」  「永夏の家は何処らへんなんや?」 「ソウル市内だ。車で10分くらいだな」  その景福宮の近くに土俗村(トソッチョン)と言う目的の店はあった。すでに予約済みらしく、個室に案内された。  参鶏湯(サムゲタン)にテンジャンチゲ、サムギョッサル、ケジャン、マンドゥ、石釜(トルッソ)ビビンバ、お菓子はヤックア、ホットク、飲み物にスジョングアが出た。  量が半端じゃない。塔矢は眩暈がしそうだったが、進藤、社、和谷は大喜びだ。 「進藤、辛いもの大丈夫なのか?」 「俺、全然平気。塔矢ダメなのか?」 「ダメってほどじゃないけど、超辛は無理かも」  秀英が「塔矢、それ程辛く無いと思うよ」 と言っている。韓国人が言うところの、それ程とはどのぐらいなのだろう?  思い切って食べてみれば、成る程これなら大丈夫そうだ。全員が塔矢が食べるのをじっと見ているので「大丈夫。食べれそうだ」 「そっか。よかったな」 進藤も嬉しそうにしている。  流石に若者の集まりだけあって、大量の食事も瞬く間に無くなっていった。 「凄い旨かったなぁ。ああ幸せ~」  ヒカルの満足そうな様子に、永夏も嬉しそうだ。 「本場もんは、流石やなぁ」  折角韓国に来たんだから、少しは観光も楽しんでみないかと秀英に言われ、「俺、さっきの古宮に行ってみたい。それから国立古宮博物館とソウルタワーに行きたい」  みな一様に驚いた。進藤の口から博物館なる単語が飛び出すとは……青天の霹靂!   お前頭大丈夫か? 熱でも出たんちゃうやろか、どれ? と社の掌が額に当てられる。「お前らなぁ~」フルフルと拳を握りしめるヒカル。  まあまあ、みんな落ち着いて。僕は博物館に行きたいよと言う塔矢の言葉に、じゃそうしようかと全員が動き出す。 「なんか、ムカつくなぁ。俺じゃなくて何で塔矢だったらすんなり受け入れるんだよ」   誰も行かないなんて言ってないって。そうそう言ってない言ってない。「やっぱ、ムカつく~」  結局一番熱心に見て質問攻めにしていたのは塔矢だった。塔矢と博物館ピッタリな雰囲気だ。  古宮と博物館を見学、ソウルタワーに登ればソウルの街が一望出来素晴らしい眺めだった。和谷は昨年に2ヶ月程滞在していたので、永夏と秀英に色んな所に案内してもらった。博物館は行って無かったけどな。  そんなこんなで永夏の家に着いたのは、午後5時頃だった。  永夏の家はとても大きくて立派なマンションだった。今、永夏一人暮らしという事だが、部屋数は4LDKの間取りだ。  佐為のマンションと一緒だなと、ヒカル心の中で思った。 「ハァ~疲れたなぁ」 永夏と秀英に飲み物を出して貰い、一息付いている。 「少し休憩したら、晩御飯まで一局打つぞ。碁盤と碁石運ぶの誰か手伝ってくれ」  一手30秒の早碁で打ち、夕食は南大門市場(ナムデムンシジャン)に連れて行って貰った。  日本からの観光客も多いということで、市場は大層な賑わいだった。  思う存分色々な料理を堪能し、永夏の家に帰りお風呂を順番に入り、また夜遅くまで打ち込みや検討などをし、午前3時頃に就寝となった。  明くる朝一番早く起きたのは永夏と塔矢。と言ってもすでに午前9時を回っている。その後に秀英が起きて来たが、後の三人は未だ爆睡中。 「どうする? 起こした方がいい?」   塔矢が永夏に確認を取る。 「そうだな。今日は11時頃にお客が来る。早めに朝ごはん食べて準備したいからな。可哀相だけど起こすか」 「じゃ、僕と秀英で起こして来るよ」  部屋に入ると、三人共のほほ~んと寝ている。 「やれやれ。和谷・社・進藤起きろ!」  体を揺すりながら順に声を掛けていく。和谷と社は「何だよぉーもう」「もっと寝かせろや」  文句を言いつつも起きたが、一番の難問は、くかぁーとまだ寝こけている。 「おい、進藤早く起きろ」 秀英が再度体に手を掛けて揺すると寝言を言った。「ウゥーン、佐為、もっとぉ~」   ピタッ! と全員の動きが止まる。お互いにギギーと首を回し顔を見合わせる。  もっとぉ、何だろう? もっと寝かせてなのか、もっと何かして欲しいのか。こういう寝言が出るということは、ちょくちょくお泊りしていると考えても、差し支えないよな?  朝から脳内変換をして、考えてしまった若者達。考えたとしても誰も責めたりはしないよな。うん、しないしない。  勝手に結論づけて、社が進藤を引っ張り起こす。 「進藤、起きろや!」 「ウワァ~~!」  突然体を抱き起こされ、吃驚して目が覚めたヒカル。 「な、何?!」 「起きる時間や」 「ええっ、もうぉ~?」 「そうなの、もう起きる時間なの」  秀英がえらく脱力モードに見えるのは、俺の気のせいか? 他のメンバーを見回すと、みんなあらぬ方向を向いている。 「お前ら、どうかしたのか?」 「何でも無いよ。早くご飯食べるよ。三人共顔洗って」 「チェッ、折角いい夢見てたのに~」   それはどんな夢だ?! と突っ込みたいのを堪えつつ、其々動き出す。    朝ごはんを済ませ、歯磨きして着替えてリビングに向かう。 「なんでこんなに早く起こしたんだよ、永夏ぁ」 「もう少ししたらお客が来る」   永夏の言葉に、エッ、お客? と声が洩れる。まさか、まさか佐為じゃないだろうな。イヤ待てよ、可能性は物凄く高いぞ。韓国の(ファン)九段は友達だって言ってたよな。 「お客さんて誰が来るんだ」  和谷も興味深げにしている。 「黄先生と(アン)先生が来て下さる。ジックリと打ち込みしてもらえよ。俊勇(ジュンヨン)俊浩(ジュノ)も来るぞ」  アチャ~やっぱりか。佐為ったらいつ韓国に来たんだろ? 「ウォー、黄先生と安先生来よるんかい。楽しみやんけ~。おい進藤、何ソワソワしてんねん」 「フェッ! いやなんでもない、よ」  素っ頓狂な声を上げワタワタしているヒカルを、永夏が怪訝そうに眺めている。 「ちょ、ちょっと、ベランダで朝の空気吸って来るよ」  パタパタと足早にベランダに急ぐヒカル。塔矢と和谷が目配せしてその後を追う。  塔矢と和谷が両脇に並んで、同じように風景を眺める。そんな二人を交互に見て、ハァ~と溜め息をつきベランダの手すりに顔を伏せる。暫くそうやっていたが二人が何も言わないので、痺れを切らしたヒカルが問い掛ける。 「何が訊きたいんだよ」 「いいや、何も訊きたい訳じゃないよ。僕達も朝の空気を吸いに来たのさ、ねぇ和谷」 「うん、そうだぞ」 「……」   嘘つきやがれと思ったが、懸命にもヒカルは無言を貫き通す。 「あっ、でも一つ訊いてもいいか?」 「なんだよ~」 「藤原さんは今何処に居るの?」 「……知らない。本当に知らないんだ。韓国来るとは一言も言ってなかった」  でも、来るんじゃないかなぁ~とは、思っていた。韓国行きの話をした時の、佐為の態度で。 「連絡は取ってるんか?」 「一応、毎日連絡は取る」  ゲッ! 面倒くさがりのお前が、毎日連絡を取るなんて驚きだぁ~と、和谷が感想を洩らすと 「うるせぇ」  小さな声で返事が返り、その顔は少々赤らんでいた。  俊勇 と俊浩 が二人揃ってやって来た。秀英が「おい、俊勇と俊浩が来たぞ」 とベランダの三人に声を掛ける。  部屋に戻り、塔矢が開口一番「俊勇、俊浩、久し振りだね。元気にしてた?」 笑顔で挨拶をする。  礼儀正しく二人共お辞儀をし「はい、ありがとうございます。皆さん、お久しぶりです。韓国へようこそ」  ひとしきり挨拶を交わし、近況や棋戦の状況等、お互い賑やかに話し合っていた。 「俊勇と俊浩は何歳になったんや?」 と社に問われ「僕は16歳で俊浩は15歳になりました」 「ゲッ! ほんじゃ俊浩って北斗杯出た時、14歳ってことかいな」  14歳であの棋力かぁ~。末恐ろしや……  俊勇も俊浩も非常に素直で優しい性格をしている。永夏と秀英が可愛がるのも頷ける。  その頃、佐為と黄は何をしていたかと言うと、まだホテルウィステリアに居たのである。 「佐為まだですか。もう11時過ぎましたよ」 「ごめんなさい黄。もうちょっと待って下さい」  佐為が済まなそうに、両手を合わせる。 「それはいいですけど、何を待ってるんですか?」 「お土産のお菓子を今調理して貰ってるのです。ヒカルはお菓子好きですから喜ぶと思って。もうすぐ出来ると思うのですが」  そう言いながらパタパタと走って行ってしまった。 「……進藤君がね。はいはい、そうですか」  黄は脱力しそうだった。何処までも彼基準で考える佐為だな。  5分程して佐為がスタスタと戻ってきた。後ろに従業員が二人包みを抱えているので、どうやら出来上がったらしい。 「黄お待たせしました。行きましょうか」 「凄い量ですね」 「だって、ヒカルは沢山食べますもの。他も若い人ばかりだから食べるでしょ?」 「まあそうですね。永夏と塔矢君ぐらいかな、余り食べないのは」  車に乗り永夏の家に向かって貰う。10分程走り永夏のマンションに到着する。 「永夏君、いいマンションに住んでますねぇ」 「彼も稼いでますからね。三星(サムスン)火災杯は順当に勝ち上がってますよ」  其処に別に来た安太善(アン・テソン)が到着した。 「黄、藤原さん、ちょうど一緒になってよかった」 「太善さん、お久しぶりです。LG杯優勝おめでとうございます」  佐為が丁寧にお祝いを述べる。 「ありがとうございます。北斗杯ではお世話になりました」  遅くなってしまったから、早く行きますよと黄に急かされて歩き出す。  ヒカル吃驚するでしょうか? ふふっと笑んだら「佐為、顔。緩んでますよ」  黄が呆れた風情で窘める。「す、すみません」  恐縮な顔して肩を竦める佐為。その様子を不思議そうに眺めている安太善。  イケメン御一行様は目的地、高永夏の家に到着した。

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