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想恋歌

第二章 燦めく才能 第十七話                             2014.3.14

 ホテルの正面玄関に行くと、リムジンが待っていた。リムジンなんて初めて見たヒカルは、ちょっと呆気にとられている。  ドアを開けてもらい乗り込むと、座席の広さに更にビックリ! 「斉藤さん、後はお願いしますね。何かあれば携帯に」 「はい、かしこまりました。いってらっしゃいませ」  秘書の人が応え佐為も乗り込んできた。車は滑らかに動き出す。 「スゲェー、リムジンって乗り心地いいねぇ。俺も車欲しいなぁ」 「車欲しいって、免許は持ってるんですか?」 「うん、もっちろん。塔矢と一緒に取りに行ったんだよ。かなーり時間かかったんだけどな」 「ハハーン、さては塔矢に勉強教えて貰ったのでしょ?」 「よくわかるな佐為」 「そりゃぁ分かりますよ。なんてたってヒカルですもの」 「……どういう意味だよぉ~。俺運動神経いいんだぞ」 「運動神経がいいのは解ってます。ただちょっと勉強が苦手なだけでしょ」 「ウッ……その通りです」  そうこうするうちに、佐為が住む家に到着した。見上げるばかりの高層マンション。 「佐為マンションに住んでるんだ。なんか意外~」 「どうしてですか?」 「佐為だったら、塔矢先生みたいな日本家屋に住んでるのかと思った」 「成る程。一人暮らしですからマンションで十分なんですよ。さっ、行きましょ」  案内された部屋に入り、その豪華さに目を丸くする。スッゲェー、これって億ションとか言うんじゃないのか。リビングだけで、今俺が住んでる部屋がスッポリ入りそう~。視線があっちにこっちにキョロキョロする。  驚いてるヒカルを苦笑しながら眺めて「ヒカル適当に腰掛けててください。コーヒーでいいですか?」 「あっ、うん」  ソファーに座っても何故か落ち着かないヒカル。 「ヒカル、何ソワソワしてるのですか?」  コーヒーを運びながら佐為が怪訝そうに尋ねる。 「いやあ~だってさぁ、こんな広くて豪華な部屋って慣れてないから落ち着かなくてさぁ。やっぱ俺って庶民だよな」 「フフ、そのうち慣れますよ」 「お手伝いの人とか、そういう人はいないの?」 「いませんよ。一人になりたいですからね」 「じゃ、掃除とか料理は自分でするの?」 「いいえ、お掃除や洗濯は本家のお手伝いさんが週三日来てくれます。料理は朝食意外は殆ど作りませんから。必要な時はケータリングを頼むか外食しますし」 「へぇー、そうなんだ。此処部屋は何部屋あるの?」 「4LDKです」 「ということは、このリビングと佐為の寝室と後の3つは何の部屋」 「其処に和室があるでしょ、後は書斎がひとつに貴方の部屋がひとつです」 「エッ! 俺の部屋?」 「そうですよ。いつでも泊まりに来てもいいって言いましたでしょ」 「俺の為に用意したの?」 「そうですよ」  ヒカルは呆然として佐為の顔を眺めている。 「あの、部屋見てもいい?」 「はいどうぞ。こっちですよ」  リビングを出て此処がお手洗い、此処はバスルームと洗面所、ここは書斎ですと順に説明されながら、「此処がヒカルのお部屋です」 案内された其処は、12畳ぐらいありそうな広い部屋だった。実際には15畳あったのだが、感覚では測りきれない。  ドアを開けた左手の方にセミダブルベッドがあり、一人用のソファーとテーブルがセッティングされている。PCデスクにTVもあり、反対の壁はクローゼットとトイレになっていた。部屋にトイレ! ここでもスッゲェー! と叫ぶ。窓は大きく採光も充分考えられていて、バルコニーも付いている。 「佐為、こんな大きな部屋俺が使ってもいいの?」 「勿論ですとも。その為にここに引っ越ししたんですから」 「ヘッ、そうなの? いつ?」 「5月ぐらいですね」  ヒカルは無言で立ち尽くし、部屋の中を見ていた。黙ってしまったヒカルを見て佐為が心配そうに声を掛ける。 「ヒカルどうしました。気に入りませんか?」   するとヒカルは突然佐為に抱きついた、というよりしがみついたという表現のがしっくりくるぐらいの勢いだった。 「どうしたんです、ヒカル」  ヒカルは佐為の胸に顔を埋め、フルフルと横に振っている。  佐為ははヒカルの髪を梳きながら「大丈夫ですか?」   そう声をかけるとヒカルが顔を上げ「毎日泊まりに来てもいい?」 と訊いた。 「いいですよ、毎日来られるならね。流石に毎日は無理でしょ?」 「へへ、そうだな。でも俺が泊まったりして佐為は困らないの? 来客とかあるだろ? それに好きな人が出来た時困るんじゃないのかなーって思うけど」 「来客があっても構いません、隠すような事でもありませんし。まあ~好きな人ってのは、出来たらその時に考えます」 「えへへッ、俺嬉しい~。ありがとう佐為」 「喜んでもらえて私も嬉しいですよ。そうだちょっと待ってて下さい」  そう言い置いて、佐為は向かい側の部屋に入って行く。中を覗いて見ると自分の部屋より更に大きな部屋で、キングサイズのダブルベッドがある。 「ベッドがあるってことは、佐為の寝室なの?」 「そうですよ。はい、手を出してヒカル」 「手? こう?」  掌にゴールドに輝くキィーが載せられた。 「ここのマンションの鍵ですよ。一階で暗証番号とこのキィーで鍵を開けてください。ここのフロアは私の家が1軒だけですから、他の人は乗っても停まらないようになっています。ですから、見知らぬ人と一緒にエレベーターに乗ってはいけませんよ」 「へぇーなんか凄い。俺が使ってもいいの?」 「勿論ですよ。さっきからそう言ってるじゃないですか。何か心配な事でもあるんですか?」 「ううん、そうじゃないんだけど、なんか幸せすぎてちょっと怖いかなぁーなんて」 「大丈夫です何も起こったりしません。私達はまた会えたのですから、ふたりで歩いていけば怖くはありませんよ、ネ」 「うん、そうだよな」  そう言って晴れやかに笑ったヒカル。この数年後衝撃の事態に襲われる事など露知らず…… 「そう言えばヒカルに大事な事を話しておかなくてはなりません。あちらのリビングに戻りましょう」 「なに?」 「ヒカル、楊と黄知ってますね? 北斗杯の後対局したでしょ」 「うん、知ってるよ」 「楊と黄にはヒカルの事を話してあります。私が貴方に囲碁を教えたと」 「エッ? だ、だって囲碁を教えて貰ったのは幽霊の時の佐為じゃん。幽霊だって言ったの?」 「まさかヒカル、流石に幽霊とは言えませんよ。そうじゃなくて、普通に生きていた今の私が、貴方に教えた事にしてあります。小学校六年生だったヒカルに」 「えっとじゃ、佐為はその時何歳?」 「約七年前でしょ? 私は20歳の大学生ですが、大学は京都でした。ですから私が休みの時は東京に帰ってきて、私の家で打っていたと。帰れない時はネット碁で教えていた。その資金は私が毎月出していた、という事にします。流石に小学生や中学生になりたての子供に、毎日ネットカフェに通えるお小遣いはありませんからね。ヒカル、理解しました?」 「うん何とか。じゃ、佐為が消えちゃったのはどうするの?」 「それも、突然私が居なくなったということに。ちょっと無理があるんですけど、他の理由が思いつかなかったので。ヒカルは私が何処の人なのか、名前意外は知らなかったと」 「えっとそしたら、囲碁を教えて貰った期間は一緒でいいんだよな。で、ある日突然佐為は俺の前から居なくなって、捜したけど見つからなくて、俺は混乱したと……」  ヒカルは思い出したのか段々涙声になってきた。佐為が慌ててヒカルの背中を擦る。 「大丈夫佐為。じゃ、ホテルの前で会った時に知らないって言ったのはどうするの? 塔矢が一緒だったんだよ」 「そう、それも無理があるんですけど、私に何かの考えがあって、わざとそうしたって事にします」 「エー? それで通る?」 「いいんですよ。どうせ真相なんて誰にも解かりゃしませんから。それに聞かれない限り話すことはありませんし」 「俺と佐為が出会ったきっかけは、何て?」 「それは、私とヒカルふたりだけの思い出なので、内緒ってことにしてあります」  ヒカルは異星人でも見るような目つきで、佐為を眺めていた。ムチャブリがパワーアップしてる。 「当時の家は何処なんだよ?」 「白金台です」 「そっか、わかった。上手く誤魔化すようにする。一番のネックは塔矢と和谷なんだよなぁ」 「佐為、ネット碁ってまたする? 俺PC買ったからネット碁してるんだよ。でも佐為がネット碁すると、アッという間にバレるよな?」 「そうですねぇ、連戦してるとバレますね。ハンドル名変えてたまにするとかはどうでしょうか? いえ駄目ですね、棋風で判ってしまいます」  うーん、何かいい案はないかなぁーと、ふたりでああでもない・こうでもないと思案に没頭した結果、どうせバレるなら今までどおり”sai” として打つ。ヒカルと打つ時は、プライベートルームに入る。ということでとりあえずしてみる事にした。 「でも、ヒカルとは対面して打てるのですから、特にネット碁でなくてもいいですけどね。ヒカルのハンドルネームは何です?」 「”hikaru” にしようかと思ったんだけど、安直かなぁーと思って”karu” にした」 「安直さは大して変わりませんね」  さり気なーくサラッと言ってのける佐為。 「ヒッデェー! 佐為なんかそのまんまじゃんかぁ」 「それも、ヒカルが考えたんですけどねぇ」 「アッそうか。ハハッ」 「あと、携帯の番号とメアド交換しましょう。赤外線通信出来ますか?」 「出来るんじゃね? したことは無いけど」  ふたりで通信完了させて確認。 「おっ、入ってる入ってる。これで毎日連絡取れるな」 「そうですね。私が留守でも上がって構わないですからね」 「うん、分かった。ありがと佐為」 「さて、ではお昼ご飯を済ませたら一局打ちますよ。ヒカルがどのぐらい腕を上げたか見させてもらいます。23日の天元戦最終対局の前哨戦といきましょうか」 「よっしゃー! 見てろよ佐為、ゼッテェー負けねぇからな」 「その意気ですヒカル。楽しみですねぇ」  お昼はホテルのケータリングを取り寄せてくれた。当然ウィステリアホテルから。  お寿司と味噌汁、茶碗蒸しに煮物と天麩羅のメニュー。お寿司の出前は知ってるけど、他の物まで出前してくれるなんて、初めて知ったヒカル。温かいものは温かいままの配慮がされている。お味噌汁は流石に温め直していた。 「これって普通にケータリングしてるものなの?」 「アハハ、普通はしてませんけど、頼まれればしますよ」 「ちゃんと料金払うんだ」  佐為が届けてくれた人に、お金を出してるのを見ていた。 「勿論です。オーナーだからって好き勝手してたら、経営が傾きます」 「そうなんだ~。じゃ、スイートに泊まった料金も払うの?」 「ええ、プライベートで使用した時は、規定料金をしっかり取られます。一回値引きしてって言ってみたら、ニッコリ笑って見事に無視されました。ホテルの従業員の皆様は職務に忠実で、嬉しいような嬉しくないような。さあ、食べましょう」  おいおい、ホテルのオーナーが値引きしてって、そりゃ無いだろよ。呆れモードのヒカル。  ヒカルのお寿司は二人前はあるかというぐらい、握りの数が多い。 「佐為、お寿司それだけで足りるの? 俺の少し分けようか?」 「ちゃんと一人前ありますからこれで充分です。ヒカル全部食べなさい」 「うん、いっただきま~す。ウング、うぐうまぐめぇえ~」 「ヒカル、口の中に物を入れたまま喋るのは止めなさい」 「はぐぐアツッ、はーい。小姑みてぇ」 「ナンデスって?」  佐為がちょっと怒る顔も超絶綺麗だ。いい男ってのは得だよな。 「何でもありませーん。佐為このエビ天大きくて美味いぞ」 「ホントですね。煮物も美味しいですねぇ」  ふたりで食事するのは何度食べてもいいな。やっぱり食事は一人より相手がいたほうがゼッテェーいい、なーんて考えてたらヒカルが突然「思い出した、あかり!」 と叫んだ。 「あかりちゃんがどうしたのですか?」 「昨日さ、ホテルに泊まっちゃったから家に帰らなかったじゃん。あかりがね、ケーキ持って俺のアパートまで来たんだって。塔矢と和谷が昨日そう言ってた。ケーキは塔矢と和谷で食っちゃったらしいけど、あかりに電話しないといけないんだった」 「おやまあ、あかりちゃんが? あかりちゃん元気でいるのですか? 今は大学生でしたか? 綺麗になったでしょうね。ヒカルの事まだ好きなんですね」 「佐為、あかりが俺の事好きって知ってたの?」 「そりゃみてれば判りますよ。気が付かないのはヒカルぐらいですよ」 「そうなんだ……俺って皆に鈍チンって言われてさぁ。でも俺ホントに気が付かなかったんだよ」 「それは仕方ないですね。食事終わったら、あかりちゃんにお礼の電話かけてあげなさい」 「うん、そうする」  お腹も一杯になって、ちょっと休憩とゴロゴロ横になるヒカル。 「豚になりますよ」 「いいもーん」 「私はイヤですよ」  ヒカルの側まで行くと突然抱き起こし「ホラ、其処のテラスに出てあかりちゃんに電話してらっしゃい」 「もう~わかったよぉ」  ブーブー言いながらテラスに出て行く。ホントに小姑みたいだ。仕方ないので椅子に腰掛けながら携帯を取り出す。  そんなヒカルを見ながら佐為は考え込んでいた。何だか私って保護者みたいじゃありませんか? お父さんか、お兄さんって感じがするのは気のせいですかね。気のせいですね多分、絶対気のせいです。  ヒカル、あかりちゃんと上手く話せるでしょうか? どう観ても保護者にしか見えない佐為なのだが、本人は認めたくない男の意地がありそう。  暫く鳴らしたが出ないので切ろうかと思ったら、やっとあかりが出た。 「もしもし、ヒカルなの? ゴメンネ、今講義中だったから抜けてきたの」 「あっ、ワリィあかり、そっか大学か。昨日ケーキ作って持って来てくれたんだって? ゴメンな留守にしてて、それとありがとうな」 「ううんいいの。私が勝手にしたことだから、気にしないで。それに塔矢君と和谷君にちょうど会って楽しかったし」 「何処かへ食事にでも行ったのか」 「そうなの。二人共気を使ってくれて優しかったわよ」 「そっか、よかったな。あのなあかり、誕生日だからって俺に気を使わなくてもいいんだぞ」 「……そうされると、ヒカルは迷惑なの?」 「い、いや迷惑じゃないけど、俺、俺その、お前にその気持ち返してあげる事出来ねぇし、それで……ゴメンあかり」 「ヒカル、解ってるヒカルの気持ちは。これは私の気が済むからやってることなの、だからヒカルも気にしないで。それにヒカルよりいい男、絶対ゲットしてみせるから、楽しみに待ってて。じゃもう戻るから切るね。またねヒカル」  そう早口に言ってしまわないと、涙が込みあげて来そうだったので、あかりは電話を終わらせてしまった。  本当に“さよなら” しなければいけない時間が来たのだわ。もうこれで、ヒカルへの思いは静かに静かに心の底に寝かせてしまおう。忘れる事は出来ないけれど、嫌いになることも出来ないけれど、ヒカルを好きという気持ちを、忘れる事も出来ないけれど、きっといつか、この気持は癒される。  私を必要としてくれる人が必ず現れて、癒してくれる。だからだから、泣くのは今日で終わりにする。  頑張れあかり、頑張れ……わたし「ウゥゥ……ウゥ……」  溢れる涙が、堰を切ったように零れ落ちる。ひとしきり泣いた後、あかりはピョコンと立ち上がった。 「今日は講義も囲碁もサボっちゃえ。ショッピングして美味しい物食べよう。よーし、あかり行っきまーす! ファイト!!」  電話を終えたヒカルが部屋に戻ってきた。 「ちゃんと話せましたかヒカル?」 「うん、俺あかりの気持ちに応えてやれないから、傷つけちゃったかも……」 「それは仕方の無い事です。そういう気持ちも無いのに、無理に好きな振りされて付き合ってくれてたら、ヒカルだって嫌だと思うでしょ? 大丈夫あかりちゃんは解ってくれてますよ」  そうでしょ? とヒカルの顔を覗き込む。少し寂しげに微笑んだヒカルだが、佐為の言葉に大きく頷く。 「俺、あかりには幸せになって欲しいって思ってる」  佐為は、それはそれは優しい微笑みを浮かべ頷いていた。貴方の優しい気持ちは、あかりちゃんにも絶対届きます。この子は大事な者を失った悲しみを知っている。だから、誰にでも優しい子でいられる。私の愛おしいヒカル。 「さて、それでは打ちましょうか」 「おーし、勝つぞぉ! って、何処で打つの?」  こちらですよと佐為が襖を開けると、和室の真ん中に碁盤と碁石、座イスが用意されていた。 「どわースッゲェー! これ本榧なの?」 「そうですよ。宮崎県日向産ですと言っても、判らないですね」 「うん、わかんない。他にも何処何処産ってあるの?」 「後は、奈良県春日山産がいいとされてます」 「俺さぁ、カヤの木自体知らないよ。どんな木なの?」 「枝の感じはモミの木に似てますよ。今度見かけたら教えてあげます。さて、座って下さい」   佐為が握り、ヒカル先番で始まる。 「お願いします」 双方挨拶を交わした途端に空気が変わり、ピリピリ肌を刺すような緊張感に包まれる。  雰囲気の変わっていくヒカルを、じっと見詰める佐為。これまでの数々の出来事が脳裏を過っていく。  ヒカルが第一手をパチッ! と打ち込んだ。  遙かなる【神の一手】 にふたりで辿り着くその日まで。佐為の魂の叫びが、ヒカルに届くのを願いながら、共に歩き始めた……。  此こより【佐為とヒカル】 の新たなる伝説が始まる。

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