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想恋歌

第二章 燦めく才能 第十六話                             2014.3.4

 スイートルームに移動したヒカルは大はしゃぎしている。 「スゲェー広っろーい! 佐為の部屋も広かったけど、スイートルームって超広い。さっきの部屋って佐為の部屋なんだろ?」 「そうですよ。主に仕事に使う部屋です。遅くなった時は泊まることも出来ます」 「佐為ってホテルのオーナーが仕事なの? えっと、何て言うの役職って言うの?」 「一応オーナーと呼ばれてますが、ホテルは担当する事業の一つです。正式には藤原コンツェルンの【専務取締役】です」 「それはどのぐらい偉いの?」 「偉いかどうかは分かりませんけど、お祖父様が会長、父が社長・最高経営責任者(CEO)、叔父が副社長・最高執行責任者(COO)で、一番上の兄も副社長で代取、二番目の兄が私と同じ専務で代取ですね」 「だいとりって何?」 「ごめんなさい。代表取締役を略して代取と言うんです。私は只の取締役で兄は同じ専務ですけど代表取締役です」 「代取のが偉いって事?」 「まあ、そうですね」 「へぇー、難しくて俺よく解かんねぇ」 「ヒカルはそんな事覚えなくていいですよ」 「じゃ佐為は、お兄さんがふたり居てお姉さんは病院で会った人って事?」 「そういう事です。私は末っ子です」 「ふーん。そうなんだ。そう言えばさっき、棋院のバックスポンサーになったって言ってたじゃん。スポンサーになるってことは、資金を援助するんだろ? なんでスポンサーになったの?」 「勿論貴方の為ですよ。スポンサーになっておけば何かと動きやすいでしょ?」 「……はい? 動きやすい?」 「それより、もう遅いですからお風呂入ってらっしゃい」 「うん、じゃ佐為もいっしょ」 「ひとりで入ってらっしゃっいね」  ヒカルがお風呂に行き、佐為は脱力しそうだった。【前途多難】 今の佐為の心境だ。無邪気も時には罪悪ですね。  お風呂の中でヒカルはあれこれ思っていた。 『やっぱり幽霊の時の佐為より、今の佐為は凄く大人って感じがする。幽霊の時って、子供と大人が入り混じってるような性格だったよな。歳も違うからかなぁ~? 今は大企業のお偉いさんなんだから、それも当たり前か。世間の色んなシガラミってやつがあるんだろうな。  でも佐為がホントに俺の側にいるなんて夢みたいだ。こんなことが現実に起こるなんて信じらんねぇ。これで夢オチとかだったら、ゼッテェー立ち直れないかも。  佐為、俺の為に存在するって言ってたけど、ホントにそれでいいのだろうか? 佐為がプロになれば、すぐにでもタイトルホルダーになれるのに。いいんだろうか、これでホントに……。  でも、スイートのお風呂も凄いな! こんなに広いんだったら、ふたりでも一緒に入れるのに、佐為ったら恥ずいのかな』 無邪気なお子様は、どこまでも楽天的なのです。  ヒカル自身は自覚していなかったが、佐為と再び巡り会う事が出来たのは僥倖な事であったと言える。  もう少し会う時が遅ければ痛みを抱えた心が悲鳴を上げ、それが精神肉体に影響を及ぼしかねなかったかもしれない。  ヒカルは、自分が佐為を消し去ってしまったという思いを抱えたまま。  その思いは少しずつ少しずつ心の奥底に沈殿し、冥い闇を形成しつつあった。  ゆっくりとしかし確実に、自覚していない分それは突如表面化し、取り返しがつかぬ事態を引き起こす危険性を孕んでいた。  ヒカルにとっても、佐為は掛け替えの無い存在なのである。  お風呂から出ると、浴衣とラフなルームウェアと下着まで用意してあった。浴衣は分かるけど、ルームウェアや下着なんてホテルに置いてないよな。浴衣はちょっと苦手なので、ルームウェアを着て部屋に入って行く。 「お風呂先に頂きました」  そう挨拶したら、佐為がちょっとビックリ顔して笑った。 「ヒカルもちゃんとそんな挨拶出来るんですね」 「あっ! 俺の事バカにしてるな。出来るさもう19歳なんだから」  何の事はない。塔矢にこっぴどく言われたからなんだけど。 「バカになんてしてませんよ。そうですね、19歳になったんですね。貴方の前から消えて4年5ヶ月経ちます。背も伸びて、大人になりつつありますね。中身はまだ子供ですけどねぇ」 「やっぱ、バカにしてるじゃないかぁ。ちぇいいけどさ。ねぇ、このルームウェアって佐為が用意したの?」 「そうですよ。ちょうどピッタリですね」 「うん、佐為もお風呂入ってきなよ」 「私はちょっと仕事に戻りますので、お風呂はその後にします。ヒカルは先に寝ててください」 「イヤだ待ってる。すぐ帰ってくる?」 「大丈夫です、一時間はかかりません。言ったでしょ? 黙って何処かに行ったりはしません。ね」 「わかった」 「テレビもDVDもありますから、ゆっくりしてらっしゃい」 「佐為」 「何ですか?」 「腹減った」  佐為はフフと笑って「じゃ、お夜食頼んでおきます」  若いですねぇと、独り言ちながら部屋を後にした。  暫くしてから、サンドイッチとオレンヂジュースと紅茶とプリンが届いた。ホクホク顔で受け取って、TVを観ながら食べてる途中で「あっ、そういやぁ携帯の電源って切ったままじゃなかったっけ?」  思い出して、慌てて確認してみれば案の定切れたまま。電源入れてみれば塔矢と和谷の不在着信が、数件ずつ入っていた。 「ヤッベエー! あいつら怒ってるかな?」  和谷に電話してみよっか。 「もしもし、和谷」 「こらぁー進藤、お前何処で何やってんだよ!」 「何だよいきなり、何怒ってんだよ」 「指導碁とっくに終わってんだろ?」 「な、何で知ってんの?」 「塔矢に聞いたんだよ。お前何時に帰ってくるんだ?」 「エッあの、今日は帰らないんだけど……」  何処か後ろめたさがある為か、段々と声が小さくなっていく。 「ハア? 帰らない?」  和谷の不機嫌大爆発の声が、恐ろしい。 「進藤、まだウィステリアホテルにいるの?」  突然塔矢の声が聞こえた。 「塔矢! お前達一緒にいるの? 何やってんの?」 「今日は君の誕生日だろ。だから食事にでも行こうかと、和谷くんと一緒に君の家まで行ったんだよ。君電話に全然出ないし。ついでに指導碁の内容も聞きたかったんでね」   ヤバッ! そう言えば塔矢の奴、去年のホテルの一件の時一緒にいたもんな。佐為の事、ネットのsaiかもしれないって疑ってるし。困ったぞどうすりゃいい? 「もしもし進藤。今夜はホテルに泊まりなの?」 「あーうん、実はそうなんだ。藤原さんが部屋用意してくれたんで、折角なんでお言葉に甘えてさ」 「藤原さんも一緒なの?」 「ハッ! えっまさか、そんな訳ないだろ」 「へえ、そうなの?」  塔矢の疑わしげな発言に、冷や汗が出そうだった。電話でよかった。これで面と向かって話してたら、まず誤魔かしきれない。何しろヒカルは、考えてる事がすぐに顔に出てしまうタイプなのだ。 「おい進藤、あかりちゃんがお前の誕生日ケーキ作って、持って来てくれてたぞ」  また電話が和谷に変わった。 「あかりが? 今一緒にいるの?」 「いや、さっき俺らで家まで送っていった。ついでにケーキも俺らで食った。お前、明日あかりちゃんにお礼言っておけよ。解ったな」 「うん、解った」 「それから、指導碁の話も聞かせろよ。じゃぁな」  唐突に電話は切られた。ウゥ~最悪。  塔矢と和谷は2人でにんまりとしていた。 「絶対、藤原さんが一緒にいるよ。あの慌てようは間違いない」 「だけどよ、何で急に関係が進むんだ」 「だから今日指導碁に行って、何だかの進展があったんだよ。この指導碁も藤原さんが進藤と会う為に、予定のひとつとして組んだんだと思う」 「進展ってどんな? それに、もっと前から進展があったかもしれないだろ」 「いや、内容は判らないけど。でも前からあるなら、棋院を通して指導碁の申し込みはしてこないと思うよ。進藤のスケジュール、明日も明後日も空いてるんだよ。確か予定入ってたはずなのに、急に変更になってるんだ。  そう言えば和谷聞いた? 藤原コンツェルンが棋院のバックスポンサーになったんだって。僕これも、進藤がらみじゃないかと思うんだよね」 「スポンサーになった話は聞いたけどよ、じゃ何か、進藤の為にスポンサーになったって事なのか」 「絶対そうだよ。指導碁の内容凄く楽しみだ。本当にsaiだったら、進藤は何とか誤魔化そうとするはずだから」  佐為が部屋に戻っていくと、ソファーに突っ伏しているヒカルを見つけた。 「ヒカルどうしました。眠いのですか?」  その声に顔を上げたヒカルは「佐為ぃ~どうしよう。塔矢と和谷が指導碁の事疑ってるよぉ。塔矢が何故か指導碁の事知ってんだよ。俺今日のこと誰にも話してないのに」 「おや、そうですか。棋院の事務方にでも聞いたんでしょうね」 「どうすりゃいいの?」 「そう言えば塔矢は、あのホテルの一件の時一緒に居ましたね。私をネット碁の”sai" って疑ってるのですか?」 「モロ、疑ってるよ。俺は違うって答えたけど。あれ拙かったよな。俺、頭の中真っ白になっちゃって、塔矢の存在なんか飛んじゃったんだよ」 「そうですか。ならばヒカルそのままネット碁の事は違うで押し通しなさい。それから指導碁は"しなかった”事にしておきなさい。私が貴方と会って話がしたくて、指導碁という名目で頼んだ事にしましょう」 「それで納得する?」 「納得しなくてもいいのです、どう言っても疑ってるのですから。ヘタな小細工するより、知らない・違うで押し通したほうがいいです。証拠がある訳じゃありませんし、後はいかにヒカルが上手く対応するかです」 「うん、分かった」 「ヒカル、もう遅いから寝なさい」 「佐為、お風呂は? その格好ってことはもう入ったの?」  「入ってきましたよ」 「佐為がスーツじゃ無い姿って不思議な感じ。そう言えば俺、私服持って来て無いよ。明日もスーツ着るの嫌だなぁー。佐為の家に連れてってくれるんだろ?」 「そうですねぇ、じゃあ朝ホテルにあるお店で服を買って行きましょうか? それでいいですか?」 「うん、いいよ」 「ヒカル、もう寝なさい」 「えー、だってもっと話したいし」 「これから、幾らでも話せるじゃないですか。仕方ないですねぇ」    ツカツカとヒカルの側まで歩いて来た佐為は、いきなりヒカルを抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこである。 「ヒェッ!」  素っ頓狂な声を上げたヒカルが慌てて尋ねる。「佐為、何してるの?」 「ヒカル、軽いですねぇ。身長と体重は?」 「今、170cmで53Kgぐらいだと思うけど」 「あんなに食欲旺盛なのに、ちっとも太らないですね」  そう言いながら寝室のドアを足で蹴って入って行く。 「身長はもうちょっと欲しいんだよな」  ヒカルをベッドに下ろしてやる。 「これ以上大きくならなくていいですよ。今のままで十分です」 「なんでだよ?」 「だから、それは色々とですね、とにかく程ほどでいいんです」  ヒカルに見下ろされるなんて、絶対イヤですよ。 「ちぇ! 絶対でかくなってやる」    ベッドもひろ~いとゴロゴロ転がっている。 「ほら佐為、一緒に寝ようよ。こんだけ広かったら、俺の寝相悪くっても蹴飛ばしたりしないって」 「はぁ、やっぱり一緒に寝たいのですか?」 「なん佐為、なんで嫌なの? 俺の事嫌いなの?」 「そんな訳無いでしょ」  深い溜息を吐きつつ、仕方ないとベッドに潜り込む。 「エヘヘ~。佐為と一緒に寝られるなんて夢みたいだ。ねえねえ、こっち向いて」  佐為が横を向くと、ヒカルが手を出してパタパタしている。手を握れってことなんですね。握ってあげるとヒカルはニコニコする。 「佐為、これからたくさん打とうな」 「ええ」 「一緒に色んな所へ行ってみような」 「いいですね」 「美味しいものも食べに行こうな」 「そうですね」 「ヘヘッ、佐為がまた側に居るなんて夢みたい。俺幸せすぎて怖いぐらいだぁ」  そう言いながら目を閉じたと思ったら、そのままスゥーっと寝入ってしまった。 「おやまあ、早いですね。今日は刺激的な日でおまけに緊張してましたから、疲れたのかもしれませんね」  ヒカルの髪を手櫛で梳いてやりながら、「これから私達には、どんな人生が待ち受けているでしょう」  ヒカルの寝顔を眺めながら、行く末に想いを馳せる。この子を幸せにしてあげる事は出来るでしょうか?  私のこの想いは間違ってはいないのだろうか? あんなにも決意を固めていたのに、揺らいでしまう自分がいる。  ヒカルを抱き寄せて佐為も眠りについていく。どうかこの子が苦しみませんように…… 「ウゥーン」  ぼんやりとしながらも、意識が徐々に鮮明になっていく。すでに部屋の中は明るく、見覚えの無い綺麗な天井が目に入る。 「……あれッ?」  視線を巡らせ、ハッとする。 「さい? 佐為ッ」  居ない、佐為が居ない。確かに昨夜一緒に寝たはずなのに……。ヒカルはパニックになりかけた。 「佐為! 佐為ぃー!」  自分でもビックリするような大声が出た。その時扉がカチャっと開き、佐為が姿を見せた。 「ヒカル、どうしたのです?」  ベッドに近づくと、ヒカルが抱きついてきた。 「ウゥー、何処に居たんだよぉ」  ヒカルの目から涙が零れ落ちる。 「ごめんなさい、隣の部屋に居ました。私が居ないと思いパニくったのですね」  大丈夫ですよ、と言いながら背中を撫でて落ち着かせる。 「落ち着きましたか? ヒカルは本当に泣き虫さんですねぇ」 「うっ、佐為のせいだからな!」 「はいはい、もう起きますか? 朝ごはん用意出来てますよ」 「ほんと! じゃ、顔洗ってくる」  佐為が居ると分かり、一転ご機嫌になり洗面所まで走って行く。そんなヒカルの背を見詰め、佐為は難しい顔をしていた。あの子は喪失の痛みを未だ抱えたままなんですね。これは少し時間がかかるかもしれません。  ヒカルは顔をバシャバシャ洗いながら『俺って恥ずい、ホントに夢オチだったのかとマジ思っちゃったよ』  よかった、佐為がちゃんと居てくれる。何も心配することなんて無いんだ。  朝食のテーブルに行くと、豪華な食事がセッティングされている。 「ウワー、美味そう~」 「ヒカル、飲み物は? コーヒー飲めますか?」 「うん、飲めるけど砂糖とクリーム入れて。あっ、昨日のオレンヂジュースも欲しいけど、その器械俺が使ってもいい?」 「ふふ、どうぞ」  ヒカルは嬉々としてジュースを作る。 「あのさ、この器械って普通に売ってる?」 「売ってますよ。調理器具を扱うお店に行けばあります。欲しいのですか?」 「うん、欲しい。このジュース飲んだら、売ってるジュース飲めねえよ」 「おやおや、じゃ後で買いに寄りましょうか?」 「えっホント? やったぁ」  朝食を済ませて暫くしたら、部屋の呼び鈴がなった。  佐為が出て行き、物凄く大きな荷物を抱えたふたりの人を招き入れた。誰だろう? と不思議に思いながら見てると、荷物を解き始めて並べだした。 「佐為、これ俺の服?」 「そうですよ。どれがいいですか? 好きなのを選んでください」  所狭しと並んだ服は、アウターにボトム、果てはベルトや靴下・スニーカーまであった。 「ウワッ、スゲェー」  どれにしようかなぁーと、Tシャツを手にとってプライスカードをチラッと見た。 『ウゲッ! 一万五千円? Tシャツが 一万五千円ってぇ』 横目で佐為をチラ見して、 「佐為、俺そんなにお金持ってないよ」 と言ったら「私が払いますから、気にしないで好きなの選びなさい」 「えっ、いいの?」 「はい」  妙に嬉しそうにしている佐為。  それじゃーと選んだのは、シンプルな白のTシャツに、薄手で長袖オープンカラーのチェックのシャツ、インディゴブルーのチノパン、スニーカーと靴下を選んだ。これだけで幾らぐらいするのか想像だにするのも恐いので、聞かないことにした。 「ヒカル、こちらのボトムとアウターも似合うのじゃないですか。では、これとこちらとこのシャツも頂きましょう」 「はい、ありがとうございます」  お店の人はとても機嫌よさそうだ。このぐらいパパッと買い物してくれるなら、上得意客だろう。 「後で、秘書の斉藤が支払いに行きますのでお願いしますね」 「はい、かしこまりました。ありがとうございました」  お店の人が退出して行き「佐為ぃー、こんなに沢山じゃなくてもいいのに」  これって、20万円は超えてるんじゃないのか。 「いいのですよ。それではヒカル、支度出来ましたら出かけましょうか」 「うん、じゃシャワー浴びて来る」

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