二次創作,二次小説,ヒカルの碁,オリジナル小説

Home

想恋歌

第二章 燦めく才能 第十五話                             2014.2.22

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。どうぞ中へ」  ヒカルは少し佐為に見惚れてしまったが、ハッとして慌てて挨拶を返す。 「こんにちわ。今日は指導碁のご依頼ありがとうございます」 「いいえ、こちらこそお忙しい中ありがとうございます。どうぞこちらにお掛け下さい。只今お飲み物をお持ちしますね」 「はい、ありがとうございます」  どうしよう……ドキドキが治まらない。喉がカラカラになってきた。  落ち着け・落ち着けと暗示をかけてみる。  佐為に視線を向けるのだが、すぐに視線を外してしまうという、不毛な事を繰り返していたが、その繰り返しが少し落ち着きを取り戻す事になったようだ。  通された部屋は物凄く広く、20畳ぐらいありそうな感じがした。窓は全面ガラス貼りで、高層階からの眺めは素晴らしい。  室内には、執務デスクと言うのかな? があり、ソファーセットと碁盤が載ったテーブルが別にあった。  ここは客室ではなくて、この人の部屋なんだなと思われた。入って左手の方向に別のドアがある。  ブラウンと白で統一されたインテリアは、とても上品で落ち着いた感じだ。 「最近、棋戦がご多忙のご様子。でも順調に勝ち上がっていらっしゃいますね」 「はい、ありがとうございます」 俺、さっきから同じ台詞しかしゃべって無いぞ。落ち着け、落ち着け。  ドアがノックされホテルの人が飲み物を運んできた。テーブルワゴンみたいな物の上に、コーヒーと紅茶のセット、可愛いケーキが何種類かあり、フルーツのオレンヂとグレープフルーツが載っていた。その横に見たことの無い器械があった。 「お飲み物は、何が宜しいですか?」 「あの、聞いてもいいですか?」 「はい、何でしょう?」 「その器械は何をするものですか?」 「ああ、これはフルーツを絞ってジュースにする道具です。オレンヂジュース飲んでみます?」 「あっはい、お願いします」  ヒカルは、ホテルの人がオレンヂを半分に切って台の上に載せ、テコみたいな原理でレバーを下げてジュースになる様を、興味津津で見ていた。コップ一杯のジュースを作るのに、何とオレンヂ4個も使っていた。  佐為はそんなヒカルを飽かず眺めていた。最初は緊張していたようだが、大分リラックスしてきたらしい。  やっと、この子と逢う事が出来た。共に未来を見詰めていける。  あっ、駄目、顔がニヤケてしまいそう。 「はい、どうぞ」  佐為が出してくれたジュースを、ストローで一口飲んでヒカルは仰天した。 「うんまあー!」   思わず地が出てしまった。佐為とホテルマンの人が笑っているのを見て、慌てて言い直す。 「物凄く美味しいです。俺、こんな美味しいオレンヂジュース飲んだの初めてです」 「それは良かったです。おかわり幾らでもございますよ」 「はいすみません。じゃ、もう一杯お願いしていいですか」  ヒカルはこれ以降、オレンヂジュースは終生この方法でしか飲まなかった。  プチケーキを何個かお皿に載せて貰って少し食べた。 「後は私がしますからいいですよ」   佐為に言われ、係りの人は退出して行った。佐為はコーヒーを自分で入れて、テーブルに座る。 「棋聖戦のリーグ戦も勝ち上がってますし、天元戦の最終対局は和谷君となんでしょう?」 「はい、そうです。よくご存知ですね」 「それは勿論。棋院から資料が送られて来ますからね。ご存知無かったですか? 藤原コンツェルンは日本棋院のスポンサーになりましたから」 「えっ? 棋院のスポンサー? はあ、そうですか」  何がなにやら全く分かってないヒカル。 「そうそう、そう言えば私が入院してる時には、何度もお見舞いに来てくださったのですね。お礼が遅くなり申し訳ありません。つい最近姉から聞きましたので」 「いいえ、俺がお姉さんに黙っててくださいと頼んだんです」 「そうでしたか。そう言えばお引っ越しされて、一人暮らしをされてるのですね」 「はい」 「何時頃お引越しを?」 「6月の頭ぐらいです」 「一人暮らしは慣れましたか? お母様がご心配されてるのじゃないですか?」 「はい、母は心配してますが、何とかやっています。最初の頃は仲間にもかなり心配されましたけど」 「そうですか」 「あの、そろそろ打ちますか?」 「ええ、そうですね。ではお願いします」  席に着いて「あの棋力はどのぐらいでしょうか? 置き石は何個にしますか?」  すると佐為はにっこり笑い「そこそこ強いと思いますよ。置き石は入りません、互先でお願いします」  ヒカルは唖然とした「互先で?」 「はいそうです。おイヤですか?」  「いえ、そんな事はないですけど、じゃ互先で」  どういうことなんだろう、指導碁じゃなくて互先って。  佐為が握り、ヒカルが黒、佐為が白に決まった。 「お願いします」  双方挨拶を交わしても、どうしてと、ヒカルは混乱した頭で考えていた。 『どうしよう……。この人そこそこ強いって言った。でもまさかな、そんな訳ないよな。でも』  ヒカルは散々考えた挙句、佐為と最後に打った、打ち掛けの対局を試みることにした。そうすればはっきりする。  一手目・黒17-四。ここに打つのは珍しい手では無い。もし俺の意図が読めるなら、次は4-四に打ってくるはずだ。ヒカルは佐為の顔をじっと見ていた。  佐為は、ヒカルが自分の顔を凝視してるのに気がついていた。  17-四、何かの意図があってここに打ってきたとみるのが正解だろう。  おそらく私が、自分と過ごした【ふじわらのさい】 かどうかを、確かめようとしているのだろう。  ヒカルと一緒に打った棋譜を頭の中で思い浮かべる。一手目が17-四はいくつかある。そのうちのどれだろうか?  ヒカルの気持ちに思いを巡らせ、ならばと最後の対局を選ぶ。  白2手目4-四に打つ。塔矢アキラとのネット碁でも同じ手順であるが、次の3手目で分かれる。  佐為が4-四に打ってきた。塔矢とのネット碁は3手目は17-十六だったが、3手目16-十六に打つ。  やはり、最後の対局を選んで来ましたネ。では4手目4-十六。  黒5手目6-十三。白6手目15-四。  ヒカルは最早体が震えだしそうだった。これ、これは佐為だ。  この棋譜は15手目までしか存在しない。俺が居眠りしてる間に16手目を打つこと無く、佐為は消えていった。何とか息を整えて次を打つ。   黒7手目13-三、白8手目17-三。手の震えが治まらない、視線も上げることが出来ない。  9手目3-六、10手目6-四。  やっぱり佐為だ。この対局は俺と佐為だけしか知らない、他の誰も知らない対局。  どうすればいいのだ、ここで佐為だろって確かめなくていいのか。でも恐い、訊くのが恐い……  11手目7-4、12手目6-5。  13手目、碁石を握ったがヒカルは手の震えが酷く、もう碁盤に石を置くことが出来なかった。唇も震え涙が零れそうだった。  そんなヒカルを見ていた佐為は、優しく語りかけた。 「ここで、一旦打ち掛けにしましょうか。もう打てそうに無いでしょ? ……ヒカル」  自分の名前を呼ばれたその途端、ハッとして顔を上げたヒカルの眼からは、大粒の涙がボロッと零れた。「佐為?」  佐為は微笑むとそのまま席を立ち、窓辺に寄り外を眺めながら話始めた。 「私は以前から、ある夢を見るようになったんです。平安装束に身を包んだ自分が、宮中で囲碁を打っているんです。  相手が誰なのか顔は見えません。すると場面が変わって、多分江戸だと思うのですがお城の中にいるんです。でも碁を打っているのは私ではなく、別の人物が打ちその人に指示を出していました。  また場面が変わり現代になって、どこかの家の部屋の中で誰かと対局してるのです。私は碁石を自分で置けなくて、相手の人が両方の石を置いていました。そして大きな部屋の中で、大勢の子供達が対局している所にいて、ある人物の傍らに私は控えていました。そんな夢を繰り返し繰り返し見ていました。でもその頃の私には、その夢の意味が全く解らなかったのです」 「えっ?」 「そんな頃、貴方に会いました。そして私は事故に遭い2ヶ月意識不明。眠っている間、私はある少年に霊として取り憑き、その少年と過ごした日々を、DVDを再生するように夢で見ていたのです」  その時、ドンと佐為の背中にヒカルが抱きついてきた。腕を佐為の胸の前に回し、服をギュッと握りしめ「ウゥッ」 と泣き声をあげていた。佐為はヒカルの手を優しく包み込みむと、そっと外し体の向きを変えた。 「佐為のバカバカバカ! やっぱり佐為だったじゃないか。佐為だったじゃ……ウワァァー!!」   ヒカルは佐為にしがみつき、大泣きに泣き続けた。 「ヒカル、ヒカル落ち着いて」  そう言って宥めるも、ヒカルは中々泣き止まなかった。  ああ~、この子に触れることの出来る喜び、この幸せ。霊体だった時には叶わなかった、こんなにも愛おしい私のヒカル。  ヒカルの背中を、優しく子供をあやすようにトントンし続ける。暫くそうしていたら、ヒカルもようやく落ち着いてきた。 「落ち着きましたかヒカル。涙を拭いて、ホラお鼻もチーンして。いい男が台無しじゃないですか」 「ホントに、ほんとに佐為なの? 帰ってきたの? ほんとに幽霊の時の佐為なの?」 「そうですよ。貴方と過ごした【ふじわらのさい】 ですよ」 「な、何で? 何で帰ってこれたの? 何で体があるの? 何で生きてるの? なんで……」 「ヒカル少し落ち着いて。順に説明しますからね、ソファに座りましょう」  ヒカルに紅茶を入れてあげ、自分はコーヒーを持ってヒカルの隣に座る。その間もヒカルは、佐為が消えてしまうのを恐れるかの様に、佐為をずっと見続けている。 「さっ、紅茶飲んでごらんなさい」  ヒカルは言われた通り、紅茶を一口飲む。「おいしい……」 「さっきも話した様に、その夢をいつ頃から見るようになったのか、はっきりはしないのです。  多分貴方の前から消滅した後からでしょうね。私は消滅した後、天界に行くこともなく、あの世とこの世の狭間、中有の世界と呼ばれる所にいたのだと思います。  あそこでは時間の感覚がないので、どのぐらいの時間、其処にいたのか解らないのですけど。  ただ貴方が泣いている、ヒカルが呼んでいる、私は現世に戻らなければいけない。  その感覚だけは常に感じる事が出来たのです。ですから私は、神に必死に訴えました。私を現世に戻して欲しいと。  でも、どうすれば戻れるのかも判らず、かなりの時間留まっていました。神は其処まで優しくなかったようです」 「それで、どうしたの?」 「それでね、さっきも言いましたがどのぐらいの時間が経ったのか判らないのですが、自分が戻るべき肉体があるのを見つけました。おそらく、何かの拍子に魂魄が離れ離れになったのでしょうね」 「見つけたって、空の上から見えたの?」 「いいえ違います。目で見るのでは無くて、意識を時の外に飛ばすような感じとでも言うのでしょうか、感覚で解るのです。でも戻れなかったのです」 「どうして?」 「自分の意志が強すぎて、入り込む余地が無かったのです」 「そういう事、普通にあることなの?」 「いえ、多分無いと思いますよ。それで私は事故に遭いました。あの時に戻る事が出来たんです。だからホテルの前で貴方が私を見つけた時、覚えてますか? あの時には、私は貴方の事が解らなかったのです」  ヒカルは思い出したのか、又泣きだした。ヒカルの肩を抱いて、背中をさすってやる。 「私は誰か、とてもとても大事な人を忘れてる、大事な出来事を忘れている、そういう感覚はあったのです。  そして貴方に会った。私はかなり混乱しましたよ。貴方と会ってから、貴方のことが気になって仕方無い。  でも何故気になるのか解らない。答えを見つけ出す手がかりが何も無かったのですから。私の見てる夢が、どう関わっているのか見当がつかなかったのです」 「そうなんだ。でも佐為、目覚めてから九ヶ月経つよ。どうしてもっと早く会いに来てくれなかったの?」 「勿論私だって早く貴方に逢いたかったのですよ。でも私はしなければいけない事が山のようにありましたし、貴方に会う為の準備も必要でした。何より、目覚めてから自分の気持ちを整理するのにも、時間がかかりました。  私は一度貴方の事は知らないって言いましたからね。ヒカルと私のこれからを、どうすればいいのか思い悩んでいたのです」 「じゃ、会いに来てくれたって事は、その整理はついたってこと?」 「ええ、そうですね」 「佐為、前みたいにずっと一緒って訳には、いかないよ……な」 「そうですね、残念ながら今の状態では無理かもしれませんね」 「そっか……。そうだよな。今の佐為は大きな会社の人なんだもんな」  バカみたいだ俺。佐為が帰ってくれば、前みたいにずっと一緒にいられるって当たり前の様に思ってたけど、そんな事ある訳ないか。だって生身の人間なんだから、佐為には現在の佐為としての、生活や人生があるんだもんな。24時間相手と一緒にいるなんて、家族や恋人だって普通あり得ないし。 「でも、会いたい時は何時でも連絡をくれればいいですよ。私の家に泊まりに来るのも構いません。明日は私の家に一緒に行きましょう。場所を教えておきますからね」 「ホント?」 「ええ」 「佐為もう消えたりしない? 何処にも行かない? 俺をひとりにしない?」 「行きませんよ、何処にも行きません。貴方を決してひとりになどしません。貴方が嫌だと言っても、ずっと側にいます」  それを聞いたヒカルは、佐為にしがみついた。佐為もしっかりと抱きしめ、髪に口づける。 「俺、佐為が消えちゃった時、自分のせいで佐為が消えたと思った。だから二度と碁は打たないから、佐為に全部打たせてあげるから、時間を戻してって。佐為と初めて会った最初に時間を戻してって、何度も神様にお願いしたんだ。でも時間は戻らなかったし、佐為は何処を捜してもいなかった」 「辛い思いをさせてしまいましたね。私がバカな意地をはって、ヒカルにきちんと説明をしなかったのがいけなかったのです。ヒカルよく聞いて。私が消えたのは決してヒカルのせいではありません。おそらく私は、役目が終わったので昇華したんだと思います」 「役目って何?」 「ヒカルに囲碁を教え、その才能を開花させること」 「才能を?」 「そうです。そして帰ってこれたのは新たな役割が与えられたからです」 「新たな役割?」 「はい。ヒカルを【神の一手】 に導く為の手助けをすることだと思います」 「そんな! 【神の一手】 はお前が追い求めたものじゃないか。だから千年もこの世に留まっていたんだろ?」 「いいえ、違います。【神の一手】 は貴方が目指すものです。そうでなければ、私が消滅することは無かったはず。私は貴方の為に、存在してるのです」 「そんな佐為。じゃもう碁は打たないのか?」 「いえいえ、碁を打つのは止めませんよ。黄や楊とも打ちますし、勿論貴方とも打ちますよ。但し指導碁ですよ。まだ私には勝てないでしょ?」 「なんか、ムカつくその言い方」 ブーっと膨れっ面をするヒカル。 「ふふ、でもヒカルはかなり強くなりましたね。棋譜をみればよく解ります」 「うん、俺一杯勉強して一杯打った。佐為に少しでも追いつきたいから」 「これからは共に歩んで行くのです。貴方とふたりで未来を。いつか【神の一手】 を打つ為に」  この(のち)ヒカルは、佐為の碁をまっすぐ見続け遥かなる高みを目指す。  佐為もヒカルに深い慈愛を注ぎ、常に見守りながら、共に同じ歩幅で歩き続けていった。  常に一歩か二歩先を歩きながら。ほらここまで上がってくるのですよと、ヒカルに教える様に。  佐為には、何があろうともヒカルを守り抜く強い意志があった。  そしてヒカルは徐々に佐為自身への想いを深くし、彼を見詰め続け情を交わしていく事となる。  それは、もう少し先のことであった。 「もう7時になります。ヒカルお腹空きませんか? お食事にしましょう」 「何処かへ食べに行くの?」 「いえ、此処に運んで貰います」 「へぇ~、オーナーって凄いんだな。で、何食べさせてくれるの?」 「中華料理。ヒカル中華好きでしょ」 「うん、好き。あっ! 思い出した。この間の北斗杯の時に、俺の部屋に運んでくれた食事のメニューって、佐為が考えたんだろ」 「あれ、バレてました。オムライスととラーメンとデザートを余分に付けただけですよ。料理長がブーブー怒ってましたけど」 「何て怒ったの?」 「せっかくの料理の品位が損なわれるって、言ってましたっけ」  まっそうだろ。和食の懐石料理だったんだもん。オムライスにラーメンは無いわな。俺は嬉しかったけど。  運ばれて来た夕食はフルコースのようだった。ヒカルが普段食べたことないような、高級そうな料理ばかり。そして最後に大きくは無いが、イチゴと生クリームのホールケーキが運ばれてきた。  そのケーキの真ん中には【Happy Birthday】 の文字。 「佐為、これ俺の誕生日ケーキ?」 「はいそうですよ。今日19歳のお誕生日でしょう」 「覚えててくれたんだ。そう言えば佐為は何歳なの?」 「27歳ですよ」 「へぇぇ~、8歳違いなのか。幽霊の時って何歳だったの?」 「あれ、教えてませんでしたか。平安時代は数えで言いますから、現代に直すと22歳か23歳だと思います」 「だと思いますって、自分の年令判らないの。誕生日は何月?」 「平安時代に誕生日はありませんよ。自分が何月何日に生まれたのか、誰も知らないです」 「へっ? ほんじゃ、どうやって年齢数えるの?」 「新しい年に変わったら、全員一歳付け加えるのです。で、数えですから12月に生まれた子は、年が明けると2歳になるんです」 「うっそー! 1ヶ月か2ヶ月の子を2歳って数えるの?」 「そういう事です。今思うとおかしいですよね」 「どうして、そんな風になってんだ?」 「それは、私にも解りませんよ。そういう時代なんですもの」 「やっぱその頃は、寿命が短いせいなのかな」 「そうかもしれませんね。ヒカル知ってますか、織田信長公が好きでよく舞っていた【敦盛】」 「織田信長? えっと人間の50年がどうしたこうした? 【本能寺】 で、殺された前に舞っていたっていう」 「そうです、ヒカルよく知ってますね、TVドラマでも見たんですね。そう【敦盛】 の一節にありますよね。【人間五十年、下天(化天) のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり】 あの頃の人の寿命は50年程でしたから、早く大人になる必要があったのだと思います。それから信長公は本能寺の変で、敦盛は舞っていないと言われてます。あれは映像用の創作です。【桶狭間の戦い】 の前は、舞っていたという文献はあるそうです。それより蝋燭に火を点けますから、吹き消してください」 「えー、なんか子供みたいじゃん。誕生日にケーキでお祝いなんて、何年もしたことないぞ」 「いいからいいから、早く吹き消して」  佐為の嬉しそうな顔を見て、しょうがないと一気に吹き消す。 「お誕生日おめでとう」 「あ、ありがとうございます」  顔を見合わせ、アハハーと2人で大笑いした。 「さあ、ヒカルたくさん食べてくださいよ」 「うん食べる。フカヒレスープからいこうっと」   料理はどれもこれも、超絶美味しかった。佐為とこんな風に食事出来るなんて、夢のようだと思った。俺に取り憑いてた時は、俺が食べるのをただ見てるだけだった。幽霊でお腹空かないし、食事の必要無いって解ってても、あの頃の俺って無神経だったよな。  ちょっとふさぎ気味になったヒカルを見て、佐為が心配して声をかける。 「ヒカル、どうしました。具合でも悪いのですか?」 「ううん、違う。昔のこと思い出してた。佐為が幽霊だった時のこと。俺が食事してる時、佐為はただ見てるだけだったろ? こんな風に一緒に食事出来る訳じゃ無かった。あの頃の俺って無神経なガキだったよなって思って……」  それを聞いた佐為は席を立ち、ヒカルの隣に来て目線を合わせ、頬を両手で挟み言った。 「そんな事貴方が気に病む必要はありませんよ。それはどうしようも無いことでしょう? ヒカルの責任ではありません」 「うん」  そう言ったヒカルの目から、また涙が一筋落ちた。佐為はその涙を手で拭い、額に口づける。  ヒカルはちょっとビックリして目を見開いたが、恥ずかしそうに微笑み目を伏せた。 「今夜は此処に泊まっていきなさいね。スイートルーム取ってありますから」 「佐為は?」 「私は家へ帰るか、この部屋に泊まります」 「イヤだっ! 行っちゃヤだ、此処にいて一緒に居て。ひとりにしないで!」  必死の形相で佐為に縋りついてくる。 「ヒカル落ち着いて。分かったから、分かりましたから」  佐為はヒカルを抱きしめて、落ち着かせる。きっと私が消えてしまうかもと、恐れているのですね。少しトラウマになってるのかも知れません。 「では私もスイートに一緒に泊まります。それならいいでしょ」 「うん、一緒のベッドで寝る?」  涼しい顔で仰天発言をする。 「いえあの、一緒のベッドに寝るのはちょっと……」 「何で?」  佐為は片手で額を押さえ、このお子ちゃまはもうーと、項垂れる。 「それは、後で話ましょうね」  笑顔を引きつらせて、応える。 「うん、わかった」  対照的に、にこやかに返事をするヒカル。  ヒカルにとってみれば、24時間一緒に過ごした人なので、何の拘りもないごく当たり前の発言だったのだが、佐為にとってはそうも言ってられない、大人の事情というものが、いえ、男の事情かな? があったのだ。 『ヒカルって好きな女性とか、付き合った女性はいないのだろうか? そう言えば私が取り憑いてた時も、そっち方面はさっぱり関心がなかったというか、興味のカケラも示さなかったですね。  でも朝勃ちはちゃんとありましたから、健康状態に問題は無いと思いますが。まあ、毎日囲碁漬けでしたけど、普通15歳にもなれば、一つぐらい興味を示すと思うのですが、これって私が取り憑いた事が原因なんでしょうか。でも、虎次郎はごく平均的な過程を辿りましたけどねぇ』 「ヒカル、貴方好きな人いないのですか?」 佐為が思い切って訊いてみると、明快な答えが返ってきた。 「佐為が好きだよ」 「……あのですね、それは嬉しいのですが。そうじゃなくて女性とお付き合いしたとか、好きな女性はいないのですか?」 「いないよ。何で?」 「そうですか……」  うーん、これでいいんでしょうか。 「佐為は好きな人いるの?」 「いえ、今の所好きな女性はおりませんね」 「ふーん。じゃ、女の人と付き合ったことはあるの?」 「それはありますよ」 「ふーん、あるんだ。じゃあの、女の人と、その、えっとぉ……」  俺、何を言ってるんだ。  佐為は苦笑いしながら、ヒカルの言いたい事に見当をつけた。 「女性と寝たことがあるのか、訊きたいのですか?」  ヒカルは真っ赤な顔になり俯いた。 「ありますよ勿論。それなりの歳ですからね。茹で蛸になってますよヒカル」 「ごめん、変なこと訊いて」 「別に構いません。恥ずかしい事でもないですから」  なんか怒ってるみたいな口調だなぁ。怒らせちゃったのかな? どうしよう俺。  すると、佐為がヒカルの正面に来て膝をつき、両手で頬を挟み「ヒカルも、そういう事に少しは興味を持つようになったってことでしょうか?」  「そりゃ俺だって、健康な男子なんだから、時にはちょっと考えたりすることは……」  しどろもどろで応えるヒカル。 「じゃ、オナニーしたことありますか?」  そう言われたヒカルは、さらに真っ赤っ赤になり俯いた。 「熱でも出たんじゃないでしょうね」  佐為が心配する程に。 「佐為のスケベ! バカバカ!」 「何言ってるんですか、大事な事なんですよ。大体男なんてみんなスケベなものですよ」  よかった、一応正常範囲ですね。

第十六話 arrow arrow 第十四話



            asebi

↑ PAGE TOP