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想恋歌

第二章 燦めく才能 第十三話                             2014.2.9

 エレベーターに向かいながら、社がヒカルに話しかける。 「進藤、お前あかりちゃんの事どう思ってるんや」 「どうって、あかりは幼馴染だってば。何で皆同じ事ばっか訊くんだよ」 「あかりちゃんは、お前の事好きやで。お前気ぃついてるか?」 「そりゃそうだろう。子供の頃から一緒だもん」 「ちゃうわい。そういう意味やのうて、お前に恋してるちゅう事を言っとんのや」 「はぁ? そんな事ある訳無いじゃん。社、頭おかしくなったんか」 「……お前と話してると、何や知らん虚しぃー気ぃになるわ。なあ塔矢、こないに人の気持に鈍チンな奴が、何であーんな読みの深い碁が打てるんやろか。俺、理解出けへんわ。もう部屋に帰って寝よ。塔矢も進藤もおやすみさん」 「ああ、おやすみ社」  塔矢も可笑しさが堪え切れずに笑い声だ。 「何なんだ、訳解かんねぇ。なあ塔矢、社どっかおかしいのか?」 「いや別に、社はおかしくないと思うよ。ごく当たり前の事言ってただけだよ」 「はい? 当たり前の事って……あかりが俺に恋してるって事?」 「うん、そうだね」 「塔矢、お前まで何言ってんだよ」 「進藤、あかりちゃんは君に恋してると思うよ。誰が見ても一目瞭然に判るぐらい態度に出てる。気がつかない君が鈍チンって言われても、しょうがないよ」 「あかりが? 俺に? 恋してる? あかりが?」   ヒカルは眼をパチクリ・パチクリしながら、首を捻っている。 「君は、あかりちゃんの事そういう風には考えたこと無いの?」 「……うん、全然無い、ってか、そんな事考えられない。あかりはそりゃ好きだけど、でもやっぱ幼馴染に対する好きって気持ちかなぁ。なあ塔矢、それが本当だったら俺どうしたらいいんだ? どうやって、接すればいいんだ」 「今までと同じでいいんじゃないか。自分の気持ちでも人の気持ちでも、コントロールしてどうにかなるものじゃないだろ? 普通にしてるのが、相手に対しても失礼でないと思うよ」 「そっ……か。あかり何で俺なんかが好きなんだ。他にいい男幾らでもいるのに」  塔矢はヒカルに分からないように、笑んでいた。 「多分、あかりちゃんは進藤の近くに居すぎて、かえって君の眼に入らなかったのかもしれないね」 「塔矢、お前誰かに恋したことある?」 「ううん、今の所そういう気持にさせてくれる人には、巡り会えてないね。進藤は?」 「無い、と思う。というか、恋をしたらどんな気持ちになるのか解らねぇ」 「そうだなぁー例えば、其の人の事ばっかり考えてしまうとか、思い出すとドキドキしてくるとか、其の人の側にずっと居たいとか、そんな感じじゃないかな?」 「そうなのか? フーンそうなんだ」 俺、あの人の事考えるとドキドキするんだけど、これって恋? いや、違うよな、違う違う。そんなあり得ないよな。ぜってぇー違うな。違う、違う。と、否定すればする程、考えてしまうヒカルだった。   あかりを送って行った和谷は、初めての状況に内心ドキドキだった。女の子と一緒に歩けるなんて、ああ夢みたいだ。  奈瀬が聞いたら、怒るはず……『私と一緒に歩くのは、夢みたいじゃない訳!』 とか言う。絶対。 「あ、あかりちゃんは、進藤の家と近いんだろ?」 「ええすぐ近くよ」 「じゃあ、子供の頃から遊んでるんだ」 「そうね、物心つく頃から遊んでると思うわよ。ヒカルは今でこそ私より身長高くなったけど、中2ぐらいまでは私のが大きいぐらいでね、小さい時はヒカルがいじめられると、私がイジメた子をやっつけたぐらいだったの。和谷君は今、身長どのぐらいあるの?」 「えっと、多分176cmぐらいだと思うよ」 「そっか、ヒカルもそのぐらい大きくなるといいわね」  なんか、和谷の胸中は色々複雑な思いが渦巻いて、こんがらがった感じになっている。 「あかりちゃんは、進藤の事好きなんだろ?」 「えっ! あ、あの私、そんな」 「隠さなくたって判るよ。雰囲気から滲み出てるし」 「ハア……やっぱり分かっちゃうものなのね。でも、ヒカルには言わないで。ヒカルは私の事、何とも思ってないみたいだから」 「そうだな。あいつは全然そんな事考えたことも無いみたいだな。結構鈍チンだし、奥手なタイプだしな。まあ、俺らの仕事がそういう環境にあるから、中々女性と巡り合うこともないし」 「やっぱり、出会い少ないんですか?」 「うん少ないよ。遊ぶっていっても囲碁バカばっかりで遊んでるし、遊ぶ時間あったら、碁の勉強に回したいしね。もっと段位が上がって、たくさん稼げるようになれば多少違うだろうけど」 「実力の世界だから、皆さん大変ですよね」 「まっ、皆好きでやってるからいいけどね。あかりちゃんは囲碁打てるの?」 「はい、ヘボヘボなんですけど、一応。ヒカルが始めた時に、私も少しずつ教えて貰ったんです。高校でも囲碁部に入ってました。大学も囲碁部入ってますよ。そう言えばヒカル、囲碁部に指導碁に来てくれるっって約束してたのに、一度も来てくれなくて」 「ホントかよ。じゃ今度進藤と一緒に行ってやるよ。平日だったらいいんだろ?」 「はい。本当にいいんですか? お願いしても」 「おう、大丈夫。進藤のスケジュールも確認して連絡入れるよ。携帯の番号とメアド教えて貰っていいか?」 「あっはい、じゃ、赤外線通信しましょ」   二人で携帯を向かい合わせて通信。ああやっぱり夢みたい。進藤の奴こんな可愛い娘が側にいて、何とも思わないなんて、バチあたりな奴だ。それともあれか、近くに居すぎて気づかないってやつなのか? 「そういえばさ、進藤今度引っ越しして一人暮らし始めるんだぜ。聞いてる?」 「えっ! そうなんですか? 知らなかった……」  これで、ますますヒカルが遠くになってしまうんだ。何時迄もこんな気持ち引き摺ってては駄目なのに。あかりの落ち込んだような様子を見て、和谷もちょっと失言だったかなと思い始めていた。  楽しい時間はアッという間に終わり、あかりの家に到着した。 「和谷君、送ってくれてありがとう」 「ううん、どうって事無いよ。指導碁行く日決まったら連絡するからさ。おやすみ」 「はい、おやすみなさい」  あかりが家に入るのを見届けて『あーあ、もっと一緒に居たかったぜ』 胸中を吐露したかった和谷だった。  明くる日、中国×日本の戦いが幕を開けた。  大将戦 塔矢VS 趙石(チャオ・シー) ・ 副将戦 進藤 VS 楽平(レェ・ピン) ・ 三将戦 社 VS ?杰(リィウ・ジェ)。  塔矢と社は韓国戦で負けてるので、何としても勝ちたかった。  年齢で言えば中国メンバーは、3名とも日本メンバーより年下なのだが、棋力は侮れないレベルの持ち主達ばかりである。白熱した対局だったが、結果は塔矢と社が勝ち、進藤は楽平に惜しくも半目負けを喫した。  これで日本勢最後の北斗杯は、中国・1勝1敗、韓国・1勝1敗、日本・1勝1敗という痛み分けの結果になった。  おまけに、個人成績も全員が1勝1敗という珍しい結果に終わった。  この後は、お決まりのスポンサー関係者などを交えたパーティーが待っている。それまでは2時間程の余裕があるので、それぞれ思い思いに過ごすのだが、塔矢と社が、進藤が居ないと気がついたのは30分程経ってからだった。 「おい、進藤何処行ったんや? 塔矢居場所聞いてるか?」 「いや、僕も知らないよ。君に聞こうと思ってたんだ」 「可怪しいなぁ? 永夏(ヨンハ)の奴じゃ無いやろな。ちょい、秀英(スヨン)に電話してみよか?」 「ああ、そうだな」  二人で連れ立って歩きながら、秀英に電話を入れる。 「ヨボセヨ~」 「秀英、俺や」 「ああ、社か。どうしたの?」 「進藤捜しとんのやけど、お前知らんか? 永夏は何処に居てんねん」 「そういえば永夏もずっと見てないよ。進藤連れだしたかな?」 「ありがとさん。俺らで捜してみるわ」 「おい塔矢大変だ。永夏の奴、進藤を拉致しよったでぇ」 「社、拉致って、そんな不穏な言葉使ったら拙いよ。せめて誘拐とか」 「アホォ! どっちゃでも同んなしやんけ~」  ウィステリアホテルのロビーを出た所には、結構広くて綺麗な中庭が存在している。永夏に拉致? されたヒカルは、二人で噴水の縁に座りながら、話していた。 「ヒカル、もう体の調子は戻ったのか?」 「うん、もう大丈夫だよ。風邪だったかもな。永夏にも心配かけたな。ありがとな」 「心配するのは当たり前だ。こうやって話するのも、久し振りだな」 「そうだな。レセンプションも出なかったし、顔合わせなかったもんな。北斗杯もこれで終わりなんだなーと思うと、ちょっと寂しいぜ。そう言えば、春蘭杯(チュンランハイ)の1回戦勝ったんだろ? おめでとう、永夏はやっぱスゲェーな」 「ありがとう。ヒカルが国際棋戦に上がってくるのを待ってるからな」 「うん、頑張る。俺、永夏とぜってぇー戦いたい」 「ヒカル、前に話してた韓国に勉強に来る話覚えてるか?」 「うん、覚えてるよ」 「長期じゃなくてもいいから来ないか? 2日か3日ぐらいなら都合つけられるだろ? その時は、俺の家とかに皆を呼んで打てばいいし」 「そうだな、そのぐらいだったらいいかも。考えとくよ」 「永夏、もうそろそろ行こか? 皆が心配して捜しだすぞ」  立ち上がったヒカルだったが、突然永夏がヒカルを真正面から抱きすくめた。 「ウワッ! よ、永夏!」  何時もは、後からしか抱きついて来なかったのに。慌てたヒカルが永夏から離れようとすると、静かな声音が聞こえた。 「ヒカル、ごめん。このままで、少しだけこのままで」  その静かな声に、ヒカルも体の力を抜いた。  間の悪い事に、ヒカルを捜しに来た塔矢と社と途中で合流した秀英は、二人が抱き合ってる? 現場に遭遇した。  3人共、口がパカッ! と開いたまま硬直してしまった。社の人差し指がチョンチョンと脇の方を指しているのを見て、3人はそろそろと移動する。  この場面だけ見れば、愛し合ってる二人が、抱擁してるシーンにしか見えないだろうが、今までの永夏とヒカルの関係を知っている3人には、すぐに事情が判った。  時間にしたら1分ぐらいしか経ってないだろう。ヒカルはかすかに微笑み、永夏の背を撫でていた。  そして「永夏、頼むから離してくれないか?」   普段のヒカルとは思えない落ち着いた声音で言われ、永夏もヒカルを離す。 「悪かったヒカル」 「ううん、いいよ。俺のこと好きだって思ってくれる、永夏の気持ち嬉しいよ。ちょっと吃驚したけど、ハハッ。永夏……俺さ、心に想う人が居るんだ。自分のこの感情がどういう種類のものなのか、自分でもよく解っていないんだけどさ。でも、その人の事を忘れたくないって思うんだ」  この時のヒカルは幽霊だった佐為の事なのか、現代に存在している藤原佐為を思ったのか、自分でも判別はついていなかった。 「そうか……想う人か」 「永夏、永夏には相応しい人が絶対居ると俺は思ってるぜ」 「そんなの、ヒカルと比べたら……いや、いい。もうパーティーが始まるから行く。ヒカルはもう少ししたら来い」 「うん、分かった」  塔矢と社と秀英は、見つからないように、慎重に観葉植物の影に回って隠れた。 「何で、俺らが隠れなあかんのや」 「シッ! 黙って」  永夏が意気消沈した風情で歩いて行く。心なしか背中に哀愁が漂っているようだ。 「永夏って、ただの遊びだと思ってたのに、本気だったとは、物凄く驚いたよ僕」 「俺もや」 「僕も……永夏ったら可哀想。だけど、こればっかりはどうしようもないね」  進藤はまた噴水の縁に腰掛けて、何やら考え込んでいる風情だった。進藤が動くまで自分達も動けない。結構キツイぞこれは。3~4分も経った頃、ヒカルがため息を一つ吐いて立ち上がり、ホテルの中に移動していった。  ホテルの中に消えて行くのを確認して、3人もため息をついて立ち上がる。 「人様のラブシーンに出くわすちゅーのは、えろー緊張するもんやなぁ。ああ、汗かいたでぇ」 「永夏、今まで本気だと悟られないように、気持ちを押し殺してたんだな。心に想う人か……」 「進藤の心の相手か。やっぱりそうなんだな」 「なんや、秀英。知っとんのか」 「うん、何となくだけど、分かる。3月の下旬頃だったかなぁー? 韓国のウィステリアホテルで、黄先生と楊先生とあの人が一緒にいる所に、遭遇したんだよ僕達。そう言えば解るだろ僕の言いたいこと」 「おう、解るでぇ。あの人なんて代名詞使わんでもええで秀英」 「そ、そうか。あのさ、ネットのsaiと進藤って何らかの関わりがあるって聞いてるけど、そういう噂あるのか? あの藤原さんが"sai" じゃないかって永夏も言ってたんだけど、どうなの?」 「ああ、あるよ。進藤の打ち筋や棋風が"sai" によく似てるから、みんなそう思ってる。師匠じゃないのか? という声もある。でも進藤は知らないって言ってるし、証拠があるわけじゃない。藤原さんが"sai" なのか? って言うのも確かめようが無いのが、今の状況だね」 「ふーん、そうなのか。例えば本当に進藤の師匠だとして、それを隠す理由は何?」 「それもよう解らへんよな。プロでないから隠しとんのやろか。塔矢、棋院の資料に載せるのに、師匠はプロでないとダメやとかいう決まりがあんのか?」 「いや、そんなの聞いたことはないけど、実際はどうなのか解らない」 「さよか。確かにアマチュアの名前を師匠欄に載せても"これは誰や?" の世界だわな」 「ボチボチ行こうよ。パーティーが始まってしまうよ」 「そうしようか」  会場にの入り口に着くと、進藤が寄ってきた。 「塔矢、社、秀英、お前達どっかに行ってたのか? 捜しても居ないから心配したぞ」 「うん、実はそうなんだ。ごめんよ遅くなって、悪かった」  こういう時の塔矢って、シレッとした顔して嘘つくんだよな。と社も秀英も思っていた。 「俺、明日が楽しみでさ。早く黄先生と楊先生と打ちてぇな。秀英は黄先生と打ったことあるのか?」 「うん、あるよ。楊先生はまだ無い」 「そっかぁ、ワクワクするな」  そうこうするうちに、パーティーが始まった。今回は、引き分けという結果だったせいかどうかは分からないが、終始和やかに進み、各々歓談し楽しんでいた。 「塔矢、明日のスケジュールは決まってるのか?」 「うん、えっと朝チェックアウトして、10時までに碁会所に集合。1回対局したら昼休憩にして、それから相手を変えて出来るなら2局打つ。っていう感じでどう?」 「じゃ、持ち時間あり?」 「ありだよ。1時間はどう? 検討の時間も欲しいだろ?」 「分かった。社、楽しみだな」 「おう、ワクワクするでぇ」  そして明くる日、塔矢行洋の碁会所には、総勢8名が集まっていた。俊勇(ジュンヨン)は叔父さんの所に行くとのことで、こちらは不参加。碁会所は特に休みにはしなかったので、市河さんから事前情報を貰っていた常連さん達は、今か今かと手ぐすね引いて待っている。  北島さんや広瀬さんなんかは、朝9時に碁会所にやって来て「いっちゃん、掃除手伝うよ」  そう言いながらせっせと働いていた。  一行が碁会所に到着して入店すると、お客さんの間からドヨメキが起こった。中国と韓国のトッププロが間近に見られるなんて、滅多に無いことである。 「皆さん、宜しくお願いします。どうぞ私達に構わず対局をお続けください」   黄がそつなく挨拶する。が、皆舞い上がってしまっている。 「あの先生方、サイン頂いても宜しいですかな?」  北島さんが何時に無く、遠慮しがちに声をかける。 「はい、大丈夫ですよ。色紙ありますか?」 みな嬉々として色紙を手に並ぶ。  塔矢は身の置きどころが無い心持ちだった。碁会所にしたのは間違いだったかな? でも、他に適当な場所が思い浮かばなかったし……。  やっと、サインが済んで「では、早速打ちましょうか? 永夏、秀英、俊浩(ジュノ)は順に1人ずつ入って下さい。日本勢の3名はそのままで。まず、楊と塔矢君、私と進藤君、最初は永夏にしますか? 永夏と社君で対戦しましょう」  対局が始まると、残りの秀英と俊浩、碁会所のお客さん達も見学に集まった。  黄はヒカルと対戦してみて『やっぱり佐為の打ち筋によく似てますね。根本の基礎の部分がそっくりかな? 棋力は高い。読みの深みが半端じゃない。このまま国際棋戦に出ても、遜色ない戦いが出来ますね。さすが佐為が教え込んだだけはあります。しかし、囲碁を始めてたった5~6年でこれ程とは』  その時、ヒカルが思わぬ一手を打ってきた。『これは……この一手はどういう?』  何か隠された意図があるのかな? 黄は10分程考え込み、ヒカルの意図を見つけた。『成る程、この展開を狙ってるんですね。侮れませんねこの青年も』   ヒカルが考えた一手も、あっさり見抜かれた。『クッ! ダメか。流石にトッププロだな』   これを見抜かれてはダメだ。後はヨセに入るだけなので、ヒカルに勝ち目は無い。 「ありません」 ヒカルが投了を宣言する。 「ありがとうございました。流石に進藤君見事ですね」 「ありがとうございました。いえ、まだまだです。黄先生にあっさり見抜かれてしまいましたし。でも、凄く楽しかったです」  程なく塔矢と社も投了した。  そして、昼休憩を挟み、2局目を、楊×社 ・ 黄×塔矢 ・ 秀英×進藤、3局目を楊×進藤・黄×社・俊浩×塔矢の組み合わせで行い、ヒカルは楊に勝つという金星を挙げたが、秀英には今回負けた。塔矢は俊浩には勝ったが、黄には半目差で負けた。社は楊と黄には負けたが、其々半目差と一目半の僅差まで詰め寄った。3名とも大健闘したと言えるだろう。それからは検討が始まり、侃侃諤諤(かんかんがくがく)と意見をたたかわしていた。  碁会所のギャラリーは、レベルの高い戦いに言葉もなく、ただ呆然としているしかなかった。   お開きの時間となって、楊と黄は先に帰途についた「あなた方が国際棋戦に上がってくるを楽しみに待っています。勿論、秀英・俊浩もですよ。又、機会があれば打ちましょう」 「はい、ありがとうございました。どうぞお気をつけて」 全員で碁会所の外に見送りに行った。  帰りのタクシーの中「楊、進藤君はどう思いました?」  「佐為の棋風によく似てるな。あそこまで似るって事は、基礎の段階で相当数佐為と打ってるって事だぞ。反対に言えば、他の人に指導碁を受けた事が無いとも言えるよな」 「そうですね。どう考えてもそれ程の数が打てるとは、思えないですけど。塔矢君も、先生の棋風が所々ありますけど、彼の場合は他の棋士達共研鑽積んでますから、進藤君程顕著に現れてはいないですね」 「そうだな。おい、佐為の大学って何処だった?」 「京都大学ですよ。何故ですか?」 「いわゆる日本人が京大って呼ぶ所だろ? 東大と双璧って言われる」 「そうですよ。だから大学がどうしたんですか」 「いや、だって佐為が進藤君に碁を教えたのって、大学生の時って言ったじゃないか。京大なんだから京都市にあるんだろ? 進藤君は東京に住んでるんだぞ。どうやって、そんなに頻繁に会えるんだ。ずっとネット碁か?」 「……」 「どうしたんだ、黙りこんで」 「いえ、そうですね。確かに」  大学の事は失念していた。東京と京都を行き来する。出来無い事は無いけれど楽では無いはず。いくらなんでも、小学生か中学生の男の子が、京都まで何回も足を運ぶなんて、ちょっと考えにくい。ちなみにタクシーの中での会話は英語で話された。タクシーの運転手が囲碁関係に詳しいと拙いという配慮だった。 「佐為に色々問いただしてみても、無理だろうな」 「ええ、そうですね」  二人共ぼんやりとして、車窓から流れていく街並みを眺めていた。

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