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想恋歌

第二章 燦めく才能 第十二話                             2014.1.25

 迎えた第4回北斗杯前日のレセプション。今年もホテルウィステリアで昨年と一緒なのだが、何もかもがグレードアップしていた。宿泊する部屋はスイートなの? というぐらい広くて、レセプションの料理も豪華版だった。  塔矢と社は何とはなしに事情が解ったが、ヒカルは解っていなかった。  日本メンバーは、団長・倉田厚、大将・塔矢アキラ、副将・進藤ヒカル、三将・社清春。  韓国メンバーは、団長・安太善(アン・テソン)、大将・洪秀英(ホン・スヨン)、副将・南俊勇(ナム・ジュンヨン)、三将・李俊浩(イ・ジュノ)。  中国メンバーは、団長・楊海(ヤン・ハイ)、大将・趙石(チャオ・シー)、副将・楽平(レエ・ピン)、三将・?杰(リィゥ・ジェ)。  レセプションでは、団長と共にメンバーもそれぞれ挨拶回りに忙しい。  韓国関係者のテーブルに来たとき、黄に声を掛けられた。そこに楊もやって来た。 「塔矢くん・社君、こんばんわ。調子はどうですか。進藤君が来てない所をみると、まだ具合が悪いのですか?」 「はい、ありがとうございます。全力で頑張ります。進藤はかなり良くなってますが、今夜は大事をとって部屋で休むようにと、倉田さんから言われて休ませてます」 塔矢が丁寧に答える。 「そうですか。ところで塔矢君達は、北斗杯が終わったあくる日は時間空いてませんか。良ければ私達と対局してくれませんか?」 「えっ! 黄九段と楊九段とですか?」 「そうですよ。どうでしょうか?」 「それはとても嬉しいです。僕は空いてますが、社はどう?」 「俺も大丈夫です。対局出来るなら、自分は一日帰るの延ばします。ホンマにええんですか?」 「そうですか。では場所は何処にしましょう」 「あの、僕の父の碁会所では如何でしょうか?」 「塔矢先生の? それはいいですね。そういえば、この間塔矢先生にお会いしましたよ。相変わらず精力的に動いていらっしゃいますね。感服させられますよ先生には」  其処に永夏が「黄先生、僕達も碁会所に一緒に行っていいですか?」 「ああ~永夏、構いませんよ」 「ありがとうございます。では秀英達にも声掛けておきます」 「ところで塔矢、進藤の食事は手配してるのか?」 永夏に指摘され、 「あっ! そういえば忘れていた、僕としたことが。倉田さんに確認してみないと」  慌てたように携帯を取り出す塔矢を見て、黄がにっこりしながら 「塔矢君、大丈夫ですよ。多分ホテルの方で手配してるはずですから」   確認してみれば、黄の言うとおり食事はすでに進藤の部屋に届けられていた。豪華版の食事が……  佐為が吟味に吟味を重ねて選んだ食材で、調理した料理である。突然作らされたコック達は、いい迷惑であったらしい。  レセプションも滞りなく終了し、それぞれ部屋に引き上げる。塔矢と社は進藤の様子を見に行こうとエレベーターに乗ると、永夏がおまけについて来た。社は解っていたが、一応聞いてみた。 「永夏、何処行くねん」 「ヒカルの所」  其処に社の携帯が鳴った。 「もしもし」  「社、永夏そっちに行ってない?」   秀英の少々焦りの混ざった声が聞こえる。 「永夏ならここにいてるでぇ。進藤んとこに行くそうやで」 「もうー永夏ったらぁ、携帯繋がらないし。黄先生と安先生が呼んでるからすぐ帰って来いって言って!」 「よっしゃ、言うとくわ」   永夏が顔を顰めて社を見ている。 「秀英からやでぇ。黄先生と安先生が呼んでるからすぐ帰って来いやて」   ニヤニヤしながら社が言う。 「それは大変だ。早く帰らないとね永夏」  塔矢もニヤニヤする。 「い、イヤだ。 ヒカルに会ってから行く」 「それは拙いんじゃないかなぁ。どうなっても知らないよ永夏」 「そうや、そうや。はよ行ったほうがええでぇ。それに進藤具合悪いさかいな、抱きついたりするとブチ切れると思うでぇ」  この脅し文句は永夏に効いた。項垂れながらエレベーターを降りる。扉が閉まると、塔矢と社は爆笑したい口元を押さえ、必死で笑いを噛み殺していた。さすがにここで爆笑しては、永夏に悪いと思って。  進藤の部屋の呼び鈴を押すと、存外元気そうな進藤が出てきた。 「塔矢、社、レセプション終わったのか? 入れよ」 「うん、終わったよ。体の調子はどう?」 「ああ大丈夫。朝のうちはまだ熱が少しあったけど、今は平熱に近くなってきたから今晩寝れば大丈夫だと思う。心配かけて悪かったな。明日、朝ご飯に行く40分前ぐらいに起こしてくれ塔矢」 「うん、いいよ。晩御飯届いたと思うけど食べた?」 「食べた食べた。すっごい豪華な食事だったぞ。俺の好きなものばっかりあってよ、すげぇー偶然だよな」 「俺、後でコンビニ行くさかい、何ぞ欲しい物あんなら買うてきたるで」 「じゃ頼む。腹膨れるなら何でもいいよ」 「そうだ進藤。北斗杯終わったら、中国の楊名人と韓国の黄国手が、僕たちと対局したいって言ってた。君の確認取ってなかったけど、OKの返事しておいた。何か用事入ってた?」 「えっ! マジで? 行く行く。タイトルホルダーなんだろ。強い人と打てるなら行く。場所は何処?」 「父の碁会所にしたよ」 「そっかぁ、楽しみだな」 「うん、俺も楽しみや。 ほんなら進藤が疲れるさかい、塔矢行こか」 「そうしよう。進藤早めに寝るんだよ」 「わかったぁー。二人ともおやすみぃ」  二人が出て行ってから、ヒカルはベッドの上に仰向けになり、天井を眺めていた。今日は夕刻ホテルに来てそのまま部屋に直行したので、佐為には会っていなかった。  ヒカルの中では、あの人は佐為じゃないのかと思う気持ちが、どうしても拭えずにいた。  さっき持って来てくれた夕食、普通誰が見てもこんなメニューありえないよな、というバリエーションだったのだ。和食中心の料理だったが、白いご飯の他に、卵トロットロの半人前のオムライスと、一人前よりはちょっと少なめの、チャーシューとメンマたっぷりのラーメンが付いていた。デザートはケーキにプリンアラモード。  ヒカルの大好物のものばかりである。佐為なら知っていて当然だった。   それともう一つ、自分の公開対局があった時に、佐為が見に来ているのに気が付いた。普段は対局に集中すると周りが一切見えなくなるヒカルなのだが、この時は予感がしたのか偶然だったのか、一回だけ目線が客席に動いた事があった。その時に一番後ろのドアの横に立っている佐為を見た。  視線をすぐ戻したので、佐為は気が付いていなかったように思うが……。  暫くの間は動悸を鎮める為、石を置くのに時間がかかった。対局が終了して、やっと客席に目を向けた時には既に居なかった。  だが霊体だった佐為が、生身の人間として存在してる事が理解出来なかった。まあ、幽霊としてとり憑いていたこと自体、あり得ないちゃあり得ないことだけど。  可能性としては、この場合何て言うのかな? 蘇った? 違うか。転生したって言うのだろうか? そんな事あるんだろうか? あるかもしれないよな。だって佐為は霊体として確かに存在していた。  自分はその幽霊に取り憑かれたという、あり得ない出来事を身をもって体験してる。「誰にも言えないけどな」  だからどんな不思議なことでも、ヒカルはすんなり受け入れられる要素を持っていた。  でも、それを確かめる手立てが無かった。前みたく、知らないと言われたらそれまでだ。だけど転生してたのなら、佐為は何故会いに来てくれなかったのか? 何で佐為は知らないと言ったのだろう……。   あの時受けた印象では、本当に知らない様に思えた。でも、自分も動揺してたから、あまり当てにならないかもなぁ。   「ウゥーン、俺の頭じゃ難しすぎて解らねぇ」   頭を抱えて体をベッドの上で転がす。塔矢とかだったらあるいは答えを導き出せるかもしれないが、まさか、そんな事聞けねぇーし。どうしたらいいんだろうか。  本人に直接訊くなんて怖くて出来ねぇ。「ああ、もう~っ」 とベッドの上で、何時までもゴロゴロしているヒカルだった。  ヒカルは昨夜、久しぶりに佐為の夢を見た。平安装束だったから幽霊の佐為だけど、二人で手を繋いで笑いながら歩いていた。暫くそうして歩いていて、隣の佐為の顔を仰ぎ見たら、現代の佐為に、つまり藤原コンツェルンの佐為さんに替わっていた。にっこり笑って「ヒカル、会いたかったですよ」 と言った。これは、俺の願望が見せた夢なんだなと、夢の中で思っていた。  熱があったから、おかしな夢見ちゃったのかもしれないな。でも、こんな夢なら何回見てもいいんだけどなぁ。  北斗杯当日、一日目は、韓国×中国、日本×韓国。 二日目に中国×日本の組み合わせになった。  日本としては、中韓の戦いを先に見ることが出来るのはラッキーだった。  控え室では、関係者達がそれぞれ観戦している。 「楊、趙石はかなり棋力上がってますね」 「ああ、そうだな。趙石は努力家だし、勉強熱心だからな」 「秀英がちょっと形勢悪いですねぇ。 太善、俊浩は緊張して無かったですか?」 「国際棋戦への参加が少ないですから、多少緊張してましたけどね、大丈夫だと思いますよ」 「楊海、?杰はどうだ」 「大丈夫でしょ。楽平に負けず劣らずの利かん気ですから」 何故か、中国と韓国の人達が日本語で話している。 「楊海さん、よくそんな言葉ご存じですね。日本人より日本人らしいですよ」 塔矢が感心したように言う。 「俺、李俊浩も?杰も、初めての相手やないか。ごっつうキツイなぁーこれは」  その中でヒカルだけは無言で、対局モニターに集中していた。  黄はそんなヒカルを観察していた。『さて、この青年はどんな戦いを見せてくれるでしょうか』  結果は、韓国側の秀英と俊浩が負け、中国の勝ちとなった。昼休憩を挟み、午後からは日本×韓国の戦いが待っている。 「進藤、大丈夫?」 ずっと静かなヒカルを心配して塔矢が声を掛ける。 「あっ俺? 大丈夫だけど。どこか変か?」 「イヤに静かだから、体調悪いのかと思って」 「心配してたのか。体の方は大丈夫だぜ」 「そうか。それならいいが……」  そして午後、日本×韓国の対局が始まった。塔矢が黒番になり、ヒカルが白番、社黒番になった。 「お願いします」 挨拶をした途端、ヒカルの顔つきは変わっていく。  黄と楊は会場からヒカルを見ていた。 多分佐為が見に来ると思って。  案の定10分も経ったころ佐為が黄達の側に来た。 「ヤッパリ見に来ましたね」  「それは勿論」 「進藤君は対局に入ると顔つきが変わりますね。同じ人物とは思えないくらいですよ」 「そうですね。私はこの瞬間が好きです。何処か幼さを残した顔立ちが、研ぎ澄まされた刃のように変わる瞬間が……とても好きです」 佐為の、愛おしい人を見詰める眼差しに、黄も楊も今更ながらに詠嘆(えいたん)する。  20分も経ったころ佐為は会場を抜けて行った。 「最後まで観戦しないのですか?」 そう訊いたら、そうしたいけど色々仕事があると言い置いて、残念そうに出て行った。  さぞかし後ろ髪を引かれる想いだったのだろう。  対局結果は、塔矢が秀英に半目負け、社が李俊浩に1目半負けで、ヒカルは南俊勇に3目半勝ちとなり、韓国の勝ちとなった。  韓国は1勝1敗の成績、中国は1勝0敗、日本は0勝1敗。明日の中国×日本の対局で決まる。  夕食は、一応各チームごとにテーブルが割り当てられているのだが、大人しく座ってるのは最初だけ。  趙石と楽平は、伊角と和谷に早く会いたくて、食事が終わったらサッサと出て行ってしまった。その際に?杰も一緒に引っ張られて行った。  韓国メンバーは日本のテーブルに混ざりこみ、食事をしている。永夏は、ヒカルの隣にちゃっかり座り込んで、  「ヒカル、これ美味しいぞ。食べてみろ」  「どれ、アッほんと美味い。秀英・俊勇も食べてみな」 「うん、美味いね。何ていう料理だろ? 進藤知ってる?」 「知らない」 「……そっけないお答えをどうも」 「秀英、【鶏肉の幽庵焼き】 だよ。サワラとか真鯛とかの魚でする事が多いけど、鶏肉も美味しいね」 塔矢が丁寧に教える。 「さすが塔矢、よく知ってるな。幽庵焼きってどういう意味?」 「江戸時代の茶人で、食通でもあった北村幽庵(堅田幽庵)が、創案したとされるお料理ですよ」   突然ヒカルの後方から佐為の声が聞こえ、ヒカルはペキッと体が固まった。 「お食事は如何ですか?」 「はい、どれもみんなとても美味しいです。ね、進藤」  塔矢は固まってしまったヒカルに苦笑いしながらも、さり気なく話題を転じる。  「はい、美味しい……です。すっごく」  ヒカルはカチンカチン状態だ。ど、どうして佐為が……ホテルのオーナーが、こんな場所に来るなんて思っていなかったので、ある意味無防備状態だった。どうしたらいいのか分からない。  佐為も塔矢と同じ様に苦笑し「そうですか。それは良かったです。たくさんお召し上がりくださいね」  では、と言って黄たちの居るテーブルに向かう。  永夏・秀英・俊勇は席を立ち会釈する。「何で立ち上がってんねや?」 社が怪訝な面持ちで訊く。 「あの藤原さんは、黄先生と中国の楊先生の友達なんだよ。きちんとしておかないと、後で怒られる」 「へぇー、そらきっついなぁ。韓国って大変やな」 「お前たちが雑すぎるんだ」 「へぇへぇ、そうでっか!」  秀英は、進藤の様子に違和感を覚えていた。この間の藤原さんが永夏に向けた視線を思い出し、曰く言い難い感情が渦巻いていた。 「塔矢、黄先生と楊先生って、北斗杯終わったら対局したいって言ってた人達?」 「そうだよ。そのお二人だよ」 「そうなんだ……友達なんだ」 ヒカルが小さな声で呟いている。  食事も終わり、皆で食事会場を出て行く。ヒカルはチラッと佐為の方へ視線を動かす。  佐為は黄と楊のテーブルに座り話し込んでいた。  丁度正面に相対する位置に座っていた楊が気づき「佐為、進藤君がこっちを見てるぞ」  その声に佐為は視線をヒカルの方に向ける。微笑んで会釈したら、ヒカルも慌てて会釈し足早に会場を出て行った。 「佐為、進藤君貴方の事に気づいてるんじゃないですか?」 「さぁ、それは無いと思いますけどねぇ」  食事会場を出ていくと、趙石と楽平が、伊角さんと和谷に纏わりついていた。?杰は、伊角や和谷と馴染みが薄いので、どうしていいのか分からず、モジモジしている。  その側には「あかり! 何やったてんだこんな所で」 ヒカルの幼馴染の藤崎あかりが、和谷と談笑していた。 「アッ、ヒカル。何って、北斗杯見に来たのよ。明日中国との対局あるんでしょ? 頑張ってね」 「ああ、ありがとう。って、わざわざ来なくってもいいのに。1人で来たのか?」 「そうよ。おばさんに熱があるからって聞いてたから、おばさんの代わりに様子見に来たのよ」 「心配しなくたって、大丈夫だよ。遅いんだから早く帰れよお前」 「こら、進藤。せっかく可愛いあかりちゃんがわざわざ来てくれたのに、その言い方は無いだろ」 「可愛いあかりちゃん?」 「十分可愛いだろうが。あかりちゃんは俺が送っていくから大丈夫だ進藤。心配するな」 「あ、私一人で帰れるから大丈夫です」 「あっそう。じゃ頼むわ和谷」 と言った途端に、パコーンとヒカルの後頭部に張り手が飛んで来た。 「イッテェー!!」   頭を押さえながら振り向くと社が立っていた。 「社、何するんだよ! イテェーじゃないか!」 「こういう時は、和谷君宜しくお願いしますって、言わんかい」 「ハァ?」 「あ、あの、私本当に大丈夫なので、社君あまりヒカルを怒らないであげて」 「なんつう、優しいいい子なんじゃろ。あっ、涙が零れてまう……」  出てもいない涙を、わざとらしく拭く真似をする。 「藤崎さん、和谷に送って行って貰ったほうがいいですよ。世の中物騒になってますからね。和谷君お願いします」 「おう、任せとけ。ちゃんと送って行くから。あかりちゃん、行こうか?」 「はい、すみません。ヒカルじゃあね。皆さんも、明日頑張ってくださいね。おやすみなさい」 「おやすみーあかりちゃん」   社が上機嫌で手を振っていて、塔矢もにこやかに会釈している。ヒカルだけがボーッと突っ立っていた。 「社、あかりの事好きなのか?」 「アホ! 今初めて会うたばっかりやんけ。しょーもないこと言ってんと、ホラもう行くで」 「また、アホって言った……」 「おや、今の可愛い娘は誰だ?」 「あっ、楊海さん。進藤の幼馴染の娘らしいですよ」  趙石と楽平に両手に絡みつかれて、苦笑いの伊角だ。 「【趙、楽平、?杰、さっさと部屋に戻れ】」 「【イヤダい。伊角さんと遊んぶんだい】」 楽平が噛み付くように言う。 「【子供の夜遊び禁止だ。明日も対局あるんだからさっさと寝ろ。これからは大人のじ・か・ん】」 「【楽平、しょうがないから行こうよ。伊角さん明日も対局見に来る?】」  楊海に通訳してもらい「ごめん。明日は仕事が入ってて来れないんだ。二人共応援してるから頑張れよ」 「うん、じゃおやすみなさい」 楽平はブー垂れたまま、 趙石と?杰に引っ張られて行った。 「やれやれ、オコチャマのお守りは疲れるぜ。伊角君、近くで一杯どうだ?」 「はい、いいですね。じゃ、割に静かな居酒屋ありますから、其処に行きましょうか?」 「おっ、いいねェ。伊角君も酒が飲める年頃になったんだなぁ。中国に修行に来た時は19歳だったよな?」 「ええ、そうです。懐かしいですね」 二人で談笑しながらホテルを出て行った。

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