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想恋歌

第二章 燦めく才能 第十一話                             2014.1.4

 4月から始まったNHK杯、若手は上手い事振り分けられたのか、はたまた偶然だったのか、トーナメントはバラバラの組み合わせになり、ヒカル・塔矢・社・和谷・伊角・越智・門脇・本田・冴木・芦原は1回戦を勝ちあがった。  60期本因坊戦は、ヒカルと塔矢の最終決戦になり、塔矢が勝利を勝ち取り、桑原本因坊への挑戦権を手に入れた。この挑戦権獲得で、塔矢は八段に昇格が決まった。ヒカルは61期リーグ戦のシード残留に回った。  天元戦は順調に勝ち上がり、和谷・越智も本戦を勝ち上がっている。前回、挑戦手合で緒方に負けた王座戦は、本戦シードで一回戦を勝ち上がった。  碁聖戦、ヒカルは3回戦を勝ち上がったが、塔矢は3回戦敗退した。塔矢の30期名人リーグ戦は、今の所独走している。  そんな中、第4回目の北斗杯出場選手を決める手合いもあり、こちらは大方の予想通り、塔矢・進藤・社で決定した。     共に18歳のトリオなので、今回で最後の出場となる。  今年の会場はウィステリアホテルに決定していた。佐為が裏から手を回した? 結果であった。  佐為は着々と準備を進め、囲碁普及の為と称し会長であるお祖父様を口説き落とした。佐為には何処までも甘いお祖父様である。会長のOKが出れば、あとはトントン拍子に話は進み、藤原コンツェルンは日本棋院の強力なバックスポンサーになっていた。  この決定に、棋院は万々歳を叫びたいぐらいの喜び様だったらしい。   藤原コンツェルンは、韓国と中国の棋士の後援はしているが、日本棋院にはこれまで一切係わったことが無いのである。  但し、佐為は以下の条件をつけていた。  ・第一事項・・・・進藤ヒカルがプロ棋士として在籍している、及び藤原佐為自身が生存している場合、スポンサーとして支援する。上記の条件をどちらかでも満たさなくなった時は、白紙に戻すとする。  ・第二事項・・・・進藤ヒカルの後援会には、藤原コンツェルンが就く。  ・第三事項・・・・支援金の用途は日本棋院に一任するが、必ず囲碁関連及び普及の為に使用する事。   ・第四事項・・・・支援金は年間3億円とする。  棋院の関係者は初めての提案に、目を白黒させ口をあんぐりと開け、確認を入れた。 「あの、藤原さんは進藤七段とお知り合いなんですか?」 「ええまあ。でも、これはオフレコにしてくださいね。後援会の話も暫くの間は、マル秘事項として扱ってください。宜しいですね? 以上の条件を受け入れて下さるなら、日本棋院のスポンサーとしての契約を致します」 「はい、解りました」  半分以上は『エッ?!』 と首を捻りたいものだったが、何しろあの藤原コンツェルンがスポンサーになってくれるなら、棋院としては否は無かったのである。 「それでは、後日弁護士と担当者を寄越しますから、契約をお願いします」  棋院ではこの契約事項は、藤原コンツェルンがバックスポンサーに納まった、という事以外は【永久極秘事項】 として、一部の担当者と上層部だけが管理することになった。  塔矢アキラや進藤ヒカルレベルになってくると、棋院には後援会の打診してくる企業等数多くいる。何しろ次代の若手のエースで、マスコミにも取り上げられる人気者である。そういった人材は企業にとってもプラスに働く為、皆虎視眈々と狙っている。  (ヤン)(ファン)が聞いたら、いや、誰が聞いても『何なんですか、その条件は?』 と言いたくなるものだったが、佐為は平然としたものだった。当初契約内容に目を通していた弁護士も、目が点になったという。  「佐為さん、本当にこれで契約するおつもりなんですか?」 「ええ、そうですよ。先生何処か変ですか?」 「いや、変と言うか (変なんですよ、とは言えず) この【進藤ヒカル】 っていうのを入れないと駄目なんですか?」 「勿論です先生。それが一番重要なんですから。契約として成立しませんか?」 「いえ、成立はしますけど」 本当にこれでいいんかい! と突っ込みたいのだが、まあこれが、藤原コンツェルンの藤原佐為たる所以である。   佐為は、その優しげで穏やかな容貌からは量れぬ程の、ビジネスライクな人間である。  ビジネスに関しては、徹底的にドライに対処する面を持つ。但し反対に、自分が気にいった者・又は出来事に関しては、物凄く甘くなる所があった。その最たる者が進藤ヒカルになったって事なんだな、と弁護士は思った。  こういう部分は会長であるお祖父様にそっくりだ。 「それで、佐為さん、支援金は年間いくらに設定しますか?」 「そうですねぇ。3億円ぐらいですかねぇ」 「さっ、3億円!」 「少ないですか? もうちょっと増やした方がいいですか?」 「いえ、充分だと思います……はい」 「では、後は細かい部分を詰めて契約書を作成しますので、出来上がりましたらお持ちします」 「はい、お願いします先生」 それではと弁護士は退出した。   退出したところで「ハァ……」 と、大きく溜息をついたのは誰も知らぬことだった。  5月の初め北斗杯が始まる2日前、中国からは楊と黄が北斗杯を見学の為来日し、日本棋院に挨拶に来ていた。  佐為の仕事が終わるのを待って、夕食に行く事になっている。  同じく、社は北斗杯参加の為大阪から上京して来ていた。丁度いいからという事で、仲間の棋士達と食事に行く事になり、皆が棋院に集まっていた。  メンバーは塔矢・社・和谷・伊角・門脇・越智・本田・奈瀬・冴木・芦原・小宮という、大体がいつも和谷のアパートに集まって、囲碁三昧している仲間ばかりだ。  そしてこの面々が、仕事を終えて事務局から出てきた、佐為・楊・黄と出会う事になる。  最初に気づいたのは塔矢だった。次に伊角は楊九段に気づき、和谷は黄九段に気づいた。  三人が同時に「あっ!」 と声をあげた為、全員の視線がそちらに向かった。  「よう、皆集まって何してるんだ? 伊角君久し振りだな」 と楊が気軽に声を掛ける。 「はい、ご無沙汰しています」  誰かの声がする「誰?」 すかさず塔矢が「中国の楊名人と、韓国の黄国手です。こちらの男性は、藤原コンツェルンの」 チラリと和谷を見て「藤原佐為さんです」 佐為が軽く会釈する。  全員が仰天しながらも一斉に頭を下げる。  中国と韓国のトッププロが二人居るというのも驚きだが、藤原佐為と言う名前と、その容貌に驚いていた。 「和谷君、元気でしたか?」 と黄に声を掛けられ、和谷は緊張しながらも「はい、韓国ではお世話になりました」 と挨拶を返す。 「何処かに行くのか?」 楊に問われて「はい、社が上京して来たので、飲みに行こうという事で」 「進藤君が居ないようですが……」 黄が佐為の顔をチラッと見ながら塔矢に尋ねる。  塔矢も佐為の顔をチラッと見て「進藤は具合が悪くて、先程家へ帰りました」  それを聞いた佐為が、「具合が悪いって、どうしたのですか?」  「熱が少し高いので」 「熱が高いのに一人で帰したのですか? 誰も付き添って行かなかったのですか……」  そこに黄が「佐為」 と呼んで、落ち着かせようと肩に手を掛ける。 「あっ、すみません」 「進藤が必要無いと言うので、それにタクシーですから家の前まで送ってくれます。お母さんには僕から連絡入れましたので、大丈夫だと思います。明日も具合悪ければレセプションは休むように、倉田さんから言われてますので」 「そうですか……」  この時、和谷はすでに気づいていた。塔矢に目線で確認すると、塔矢が小さく肯く。社も前回の件があるので、なんとなーく事情を察知していたが、他の面々は皆一様に不思議に思っていた。 『何でこの人が進藤の事に必死になってるの? と』    塔矢が「藤原さん、その後お体の方は大丈夫ですか?」 と聞く。 「はい、お陰様でありがとうございます。 もうすっかり元通りです」 佐為はいつもの様に受け答えする。 「私達もそろそろ、行きましょうか。 北斗杯楽しみにしていますから、塔矢君・社君、頑張ってくださいね。それでは失礼。佐為行きますよ」  佐為の腕をとり引っ張っていく。車中では、明らかに意気消沈している佐為がいた。 「進藤君に会えなくて残念でしたね」 「ええ、会えないことより、ヒカルが心配です」 「大丈夫ですよ、お母上もいらっしゃるのですから。風邪でも引いたんでしょうか。北斗杯に影響しないといいですね。 そうだ、楊、北斗杯終わった後に、彼らと対局するというのはどうですか?」 「おお~いいなそれ。そうしよう」 「黄、私は? 私も対局したいです」 「佐為はダメですよ。進藤君ときちんと再会してないのでしょ。大体仕事あるじゃないですか。今回はダメです」  ますます、意気消沈する男が一人。 チーン……  一方棋院に残った若き志士たち。 「ねぇ、藤原コンツェルンって言った? 凄ーい! 御曹司じゃないの。あんなに綺麗な男の人初めて見たわよ、ビックリした。女性より綺麗な人なんていいわねぇ。黄国手も楊名人もいい男だったわね」 奈瀬が一人で盛り上がっていたが、 「奈瀬、驚くのは其処じゃない”さい” という名前の方だ」 と和谷に言われ「えっ! 何で?」 と、目を見開き和谷を見る。 「奈瀬はネット碁やってなかったけ? ネット最強の伝説棋士だよ”sai” という名前は」 「ああ、そういえば和谷よく言ってたわね。 えっ! あの人がそうなの?」 「それは解んねぇ。ネットは本名も顔も見えないからな」 「でも”さい” と言う名前は珍しいよな」 門脇も思案顔で洩らす。 「うん、対局して見れば判るんだけどな」  皆で移動の為ゾロゾロと歩いていたが、塔矢と和谷は、自然最後尾で皆から遅れて歩いていた。 「あの、藤原佐為がそうなのか、成る程なぁ。まさに何もかもビックリするような人だな。塔矢お前どうして気がついた」 「んー、確か去年の北斗杯の一週間ぐらい前に、進藤と碁会所で打ってたんだ。で、夕方になって何処かで食事して帰ろうってことになって、その時にウィステリアホテルの前に居た、あの人に会ったんだよ。  最も僕はその時まで、その人の事は知らなかったんだけど進藤がね、進藤が突然立ち止まって、その人を凝視してたんだ。 顔色は真っ青で、とても尋常な様子じゃなかった。そしたら、突然”さい” って叫んで走り出したんだ。  その人に【佐為なんだろ? 俺が判らないのか、忘れちゃったのかよ】 って言ってた」 「ほんで、そん人は何て答えたんや」 突然社の声が聞こえ、二人共吃驚して顔を上げた。  其処には、門脇・伊角・社が立っていた。塔矢も和谷も自分の思考に沈んでいたので、二人だけで話しこんでる事に、誰かが気がつくとは頭の片隅にも無かった。伊角が気づき、門脇を小突く。この間の事もあるので二人で目配せして、近づいて行く。それに気づいた社も一緒になった。 「あわわ、門脇さん、伊角さん、社、な、何で」 「塔矢君、いいから答えなさい。その佐為さんは何て答えたんだ」 「……僕からは話せませんよ。そんな事話したら進藤に殺されてしまいます」 「あのなぁ塔矢。進藤ん事心配しとんのは、お前だけやないで。俺かて心配やし、門脇さんや伊角さんかてそうや。面白半分の興味で聞いとる訳や無いで」 「そうだな。進藤君は結構純粋なところがあるだろ。真っ直ぐっていうか、人の好き嫌らいをしなくて、誰でも受け入れて別け隔てなく付き合うだろ。時に、何となーく危なっかしい気がするんだよな」  フゥ~とため息をついて「佐為さんは確か、『何処かでお会いした事がありますか? 申し訳ないのですが覚えがありません』 って言ったと思います」 「進藤はどないしたんや、それ聞いて」 「うん、明らかに愕然とした表情をしてた。傍目にも解るほど落ち込んでいたよ、あの時の進藤は」 「ふーん、そんな事があったのか」 「あの、この話したのがばれたら僕が進藤に殺されるから、本当に誰にも言わないでくださいよ」 「解ってるって、安心しろ。お前の兄弟子ほど口は軽くないさ。この話は今日はここまでだな。皆が待ってるから行こうぜ」  一方、タクシーで自宅に向かったヒカルは、塔矢から母の美津子に連絡が入っていた為、家の前に着くと母が玄関の外で心配そうに待っていた。料金を払い、ヒカルの腕を取り家の中に入って行く。  いつの間にか、自分の背丈を追い越してしまった息子を抱える事は出来ないのだが、それでも背中に手を回して二階に上がって行く。 「ヒカル、大丈夫なの。熱は測ったの? 風邪なのかしら……」 「まだ、測ってない。母さん、体が怠いよぉ。何か体の節々が痛いんだよぉ」 「とにかく、ベットに横になって、ホラ体温計で熱測ってて。お母さん、アイスノンと飲み物持ってくるわ」  美津子が支度を整えてヒカルの部屋に向かうと、ヒカルは軽く目を閉じていた。熱は38.5゜Cもあった。これ以上熱が高くなると困る。確か、明日から北斗杯の大会が始まるって言ってたわよね。 「ヒカル、お腹は空いてないの? お薬飲まなきゃいけないから何か少し食べたほうがいいのだけど? 雑炊なら食べれるでしょ?」 「うん。アイスノン気持ちええ~」 「じゃ、すぐに作れるから待ってなさい。寝ちゃダメよまだ」 「ふぁーい。桃缶とプリン欲しいよぉ」 「はいはい」  雑炊を作るための材料を冷蔵庫から出して、「汗かくから、着替えせさて寝かせたほうがいいわね。そうだわ、後で桃缶買ってこなければ。あとは、プリンとゼリーとアイスクリームね」 美津子は次の予定を考えながら、手早く雑炊を作りヒカルの部屋に上がって行った。  ヒカルが小さい頃、熱を出すと決まって食べたがった物。桃缶・プリン・ゼリー・アイスクリーム。体もそれなりに大きくなってもうすぐ19歳になるのに、嗜好はちっとも変わっていないようだった。    雑炊を綺麗に平らげて、汗を拭き着替えさせて薬を飲ませ、やっと静かに寝息を立て始めた。食欲はあるみたいだから少しは安堵したが、こんなんで一人暮らしするなんて、大丈夫なのかしら? 髪を手櫛で梳いてやりながら、暫くヒカルの顔を眺めていた。  いつの間にか子供らしさが抜けて青年の顔立ちになっている。『この子って案外いい男だったんだわね』 息子の顔をしげしげと眺め、顔立ちは大人に近づいてるのに、塔矢君や社君と比べると、どう見てもヒカルは精神的に幼いように思う。   『この子って好きな子とか居ないのかしら? あかりちゃんとは、付き合ったりしてないのかしら?』 付き合ってる話なんて聞いたこと無いわね。  あんなに他所様の女の子に騒がれてるのに、この子が女の子と付き合ってる話なんて、一度も聞いたこと無いわ。ヒカル大丈夫なのかしら?  TVとかでも取り上げられてるので、家にもファンレターやらプレゼントが届くようになっている。実際家にまで、若い女の子達が押しかけて来たことがある。頼むからこれだけはやめて欲しいと思う美津子である。  一介のサラリーマンの主婦である美津子にとって、芸能界に入った訳でも無いのに、そういった物が届いた時にはかなり吃驚した。囲碁の棋士って、そんなに人気ある商売なのかしら? 等と思ったこともある。  ヒカルに訊いてみたら「そんな訳無いじゃん。囲碁はやっぱりマイナーだと思うぜ」 という返事を寄越した。「何が何だか良く解らないわね」 とブツブツ言いながら、買い物に行くために1階に降りていった。

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